徳甲一族 英霊の歌

マンガ描いたりしつつ俺屍Rをじっくりプレイする記録

一族あと語り / 07 アヅキ

1年越しの徳甲一族キャラ語り 第7回になります。
これ何?という方ははじめにを御覧ください。

アヅキ-沿革

 

真赤丸と速瀬ノ流々の娘

 

彼女の母は娘にあまり関心がなく、父は物言わぬ人だった。

次期隊長の肩書きと共に来訪したアヅキを出迎えたのは、生まれの近い男二人…そして温かな心を持った叔母・黄々である。

黄々の手料理を口にした時、アヅキは生まれて初めての『感動』を覚えた。

それは単に味だけの話ではない。
未だ復興しているとは言い難い京では、お金があっても食べられるものは乏しい。それでも一生懸命美味しいものに仕上げようという気持ちに、鬼との戦いに身を投じる傍らイツ花に料理を教わり、そしてイツ花も多忙な中その望みに応えたことに感銘を受けたのだ。

それは黄々にとっては当たり前で、特別なことではないかもしれない。
だが黄々の熱意が、愛情が、出来立てのご飯と同じぬくもりが、アヅキの心を温めたのだ。

 

アヅキは決意した。この温かさを、情の温もりを、これらをもたらした人や町の全てに応えようと。
そして、『飯は決して残さない』。これがアヅキの信条になった。

 

一族の長として隊を率い、鬼を斬り、稼ぎを京の町にも還元し、女子供を守り、仲間と共に悲願達成を目指す。後に『京の聖なる戦乙女』とまで呼ばれた清廉な女剣士の戦いが始まったのだ!

 

アヅキ隊は二代目・真赤丸や初代・大千代が成しえなかった『迷宮最奥部攻略』を完遂していった。

大江ノ捨丸、片羽ノお業、九尾吊りお紺…各地の親玉を討ち取り、夏の選考試合に優勝。大会荒らしの不成者を更生させたり、討伐の報酬を復興資金として投資したり…。京への貢献度も非常に高く、アヅキはあっという間に民衆の人気者になった。

 

順風満帆に見えたアヅキ隊だが、やがて選択の時がやってきた。すなわち、大江山の朱点閣を攻めるか否かー…である。

アヅキ隊で朱点打倒を目指すか、それとも積み重ねた力を確実に次代に伝え、1年かけてしっかりと鍛えて託すか…

 

『3人で共に生きるか、3人で共に死ぬか』の選択。彼女は後者を選び取った。

 

竜ノ助は反対しなかった。大也も、アヅキの選択ならば否定はしない。特に衝突などは起きず、アヅキたちは交神の儀を行って次代の子供たちを鍛えることにした。

 

物怖じしない性格の剣士・火輪を隊長とし、アヅキ以上の力強さを持つ槍使いの銀杏、アヅキ以上に術達者な葉菜子が補助する…。アヅキにとって守るべき対象である女子供に重大な任務を託すことに後ろめたい気持ちはあった。だけどこの子供たちならきっと朱点童子を討ち倒し、未来を掴むことができるだろう――…。

 

そして大也が討ち死にし、竜ノ助が寿命でこの世を去った。分かっていた。これがアヅキが選んだ道なのだ。もう引き返すことはできない。

万全の体調でいられるうちに子供たちを導き鍛えるんだ。だから少しでも長く、時間を下さい…。そうアヅキは願った。

その願いが届いたのか、アヅキは元気なまま、訓練に適した夏の季節を生き延びることができた。

 

…何かがおかしい。

 

これまでに屍となった一族は皆、生後1年半頃には呪いにより体調を崩していったのに。
アヅキは1年と8の月を終えた。肉体は元気そのものだ
1年と9の月を終えた。衰えは感じられず

何かがおかしい。己は竜ノ助や大也と共に屍となり、子供たちの背を見送る役目を全うするはずではなかったのか?

 

 

気付くとアヅキは朱点閣の扉を開けていた。1年前に諦め、託すことを決めたはずの光景が目の前に広がっている。

既に1年と11の月を迎えている。流石に体調は芳しくなく力は落ちていたが、敵を斬ることはできる。アヅキは朱点童子を斬ることができる。

それは願ってもないことのはずだ。子供たちに重責を負わせることなく、アヅキの意思で、アヅキの責任で宿敵を討ち倒し、呪いを解くことができるのだから。

アヅキが子に伝授するため編み出した必殺の奥義。血の繋がった親子の連携によって、その威力は底知れないものとなる。朱点童子は一撃の元倒れ伏した。

文句なしの圧勝だ。これで一族の呪いは解ける。子供たちも、自分も、この先を生きていくことができるだろう。

 

その手応えを感じたアヅキは、しかし晴れやかな気持ちにはなれなかった。何故?無理を押して戦に出たせいで身体の怠さが抜けないからだろうか。

…いや、違う

…彼女がその理由に行き当たるより早く、倒れ伏した朱点童子の様子に変化が生じた。

 

 

どうやら、アヅキは“死ぬことができる”ようだった。竜ノ助や大也のいない世界で延々生き続けることなく。

しかし、それは子供たちが、子孫たちが呪いに苦しみ続け、京の町もまた鬼の影に怯え続けるということだった。

自分はなんて罪深い人間なのだろう。

そんなアヅキの元に帰ってきた火輪は満面の笑みだった。沢山の財宝を手に入れ、変わらぬ傍若無人な姿を見せてくれた。

自分は変わらぬと、おふくろに責任なんてないと、そう言いたいのだろうか。それとも本当に宝に喜んでいるのだろうか。というか、その宝は一体何なのか。今、各地の迷宮では何が起こっているのだろうか。

 

何も、何も分からなかった。自分はもう寝ていることしかできないのに、自分の預かり知らぬところで様々なことが起きている。この先も、自分じゃない誰かが責任を背負いながら戦っていく

―−やはりそれも、彼女にとっては避けたかったことだ。誰かに責を負わせること以上にアヅキが『疲れてしまう』ような出来事は存在しないのだから。

竜ノ助や大也のいない世界で生きるのは嫌だと、心の底では感じている。されど自分ではない誰かに責任を背負わせることも嫌だと思う。そんな彼女を見て、2人はどんな顔をするだろう。

馬鹿だなあコイツ、という顔で軽く額を弾くだろうか。何も言わずに抱き締めてくれるだろうか。
それは自分の欲で、我儘な願望かもしれない。

 

徳甲アヅキ。京の誇り高き可憐な剣士の隣にはいつも二人の男がいた。

片や薙刀使い、片や槍を構えた大男。身の丈ほどの長物を構える彼らはアヅキを支え、不足を補い、なくてはならない存在だった。

 

 


アヅキについて

あらすじ(仮)がヒートアップしすぎ これこの後どうするの…(※記事編集中追記:終盤に行くつれて更に増量します)

何でこんな前置き文章を作っているのかと言うと、リアルタイムがもう大分前なので読む方の記憶薄れてるかもしれないからなんですが。

その状態でキャラ語りだけしても置いてけぼりにしてしまうかも→ざっくり振り返りをしておきたかった…っていうのが一応一番の理由です。

 

それに加えて『一族全体のあらすじ』じゃなくて『特定キャラを主役とした場合のあらすじ』だとそれぞれ主題になっているものが違ってすごく面白いと思うんです。どうだろう

竜ノ助から見える大也、アヅキから見える大也…どれも見え方違って面白い…みたいな。そういうの好きです。

 

アヅキの境遇

真赤丸・竜ノ助・大也とまとめてみてから改めて考えるとアヅキの立ち位置って表面的に見えるもの以上に過酷だなあと思いますね。

表面的な部分(同世代と死別して長生き・大江山越え後没)も大分過酷なのに、アヅキって裏過酷ポイント(本編中でピックアップしてないような点)が多すぎない…?

①流々との親子関係はほぼ無干渉で放置状態

②真赤丸との親子関係は悪くはないものの、真赤丸が人間的に色々欠如しすぎて目の前で身投げを見せられる

③大也に拗れた感情を向けられすぎた

この辺りだろうか。

ただ、この裏過酷ポイントは『アヅキ本人が意識して重く背負っているものではなかった』のかな、とも思うんですよね。

それは何故だろうと考えると、やはり『この瑕疵を補ってくれる存在』に出会えたからかなあ。

①母親の愛情に近いものは黄々がたっぷり注いでくれた。アヅキの正義感や直向きさはここに由来する

②とんでもない父親との別れ&世代交代。これは竜ノ助や大也がそばにいる事で真っ直ぐ前に進むことができた。

③大也からの拗れた気持ち…については、アヅキは気付いていません。ちょっと変かも…?と思うことはあったかもしれないけど、大也自身が「何も言わない」を徹底していたので。
アヅキの中の大也はいつも自分を支えてくれる信頼できる仲間のままだったと思う。

こう考えると①と②はそれぞれ補ってくれる存在があったんだなあ。③は大也が意図的に隠してたし。

アヅキいつも誰かに支えられながら気高く強く前に進んでいました。

だけど、『大也と竜ノ助の立て続けの死』は…今までしっかり修繕できてきたアヅキの心に修復不可能な大穴を空けたのだろうなあ。大也の死因が戦死だったことも相まって

ただ、そんな修復不可能な大穴が空いた時、アヅキは立派な大人だった(一族基準)。

若い時ならいざ知らず、アヅキはもう折れることも曲がることもできなかったし、『積んできた屍を胸に歩みを進めること』しかできなかった。

大也が見た『美しいままのアヅキ』はまあまあ歪というか…それはアヅキ本人の性質であり、アヅキの中に竜ノ助と大也の存在が在り続けるからこそ保ち続けられた姿でもあると思う。

これ半分くらい鏡だよ大也。大也と竜ノ助がいたからこそアヅキは美しい人だったんだ。

 

主人公性とヒロイン性

アヅキって『主人公的な面』と『ヒロイン的な面』を両方持ち合わせている人だと思います。

アヅキの主人公性:磨き上げた剣と技で鬼という鬼をバッサバッサと斬り倒す、強く気高い人であるところ

アヅキのヒロイン性:たった一人で全部背負って孤独に戦い続けるしかなくなったところ

…みたいな。

その分かれ目は『隣に竜ノ助と大也がいるか否か』だと思う。

仲間と一緒に戦ってる時はめちゃくちゃ主人公っぽいけど、仲間が全員いなくなった瞬間にめちゃくちゃヒロインっぽくなるという

私的にはこれがすごく面白いと言うか、アヅキらしい部分だな~とか思ってます。

 

というか、徳甲一族で『同世代を全員見送った』のは真赤丸とアヅキだけなんだ。

アヅキ以降本当に見送ってないんですねレッド組は(だいたい同世代の誰かと同時逝去or他の誰かが残っててくれた)

『同世代見送ってから半年も生きた』のは勿論アヅキだけ。しかもそのアヅキは『空いた穴を誰かに塞いでもらってきたからこそ強く生きてこれた』みたいな人だった。

だからこそ、『アヅキには竜ノ助と大也が必要なんだ』と感じてしまうんだろうなあ。

他のレッド組ならどうなるだろうなあ半年も置いていかれちゃったら。パンドラの箱感あって考えるのちょっと怖いね。特に赤とか

 

大切な存在に何を求めるか

アヅキや仲間たちのことを考えるとなんとなく、少し緋ノ丸のことを思い出してしまいますね。

徳甲一族、『自分以外の誰かをハチャメチャに強く想っている・大事にしている人』が何人かいたけど、それを大雑把に大別すると

①『相手が生きて存在しているだけで嬉しい。それだけで最強になれる』系と

②『自分(または自分の願う方向)にベクトルが向くことを望む』系

この二つかなあって思います。

こう分けるとアヅキと緋ノ丸はめちゃくちゃ前者だな~~みたいな。

 

具体的に言うと、その大事な相手が『自分以外の誰か』と『何らかの関係を結ぶこと(結婚や契約など)』をめっちゃ素直に喜べそうなイメージです。

アヅキ、竜ノ助や大也に恋人とかができたらめっちゃ素直に祝福しそう。

もし何か問題があれば当然難色を示すだろうけど、『その位置に自分が入りたかった』とは思わないんだよね。アヅキや緋ノ丸って

 

それは嫉妬心の有無とか心の綺麗さとかじゃなくて、自分と相手の関係を既に定義できているから…なのかもしれない。

アヅキにとっての竜ノ助や大也は仲間、緋ノ丸にとってのホッシーは親友。ここが確かなら相手が他の誰かと違う関係を結ぶことを普通に喜べるし、大切な人パワーで強くなれる…みたいな。
基本の関係が消えたりしなければその内訳が変化することも受け入れられるという。

 

ちなみに大也はド後者でしたね。彼はアヅキとの主従関係を大事にしているけど『満足』はできていなくて(自らの力不足などから)、アヅキに『こうあって欲しい』って理想を抱いてて…

いやなんか人間臭くて私は好きですね。こっちの方が普通だと思うし

 

そんな風に、『少しベクトル違うけど強く想い合ってるアヅキとの大也』の横に竜ノ助がいるバランスほんと好き。「ええ…なんかコイツら重くない?」ってなるポジション。笑

そういうヤツだからこそ、アヅキにとって必要不可欠な双璧野郎の片方に収まっちゃったんだけどな!!肩の力抜けて一歩引いたところから見れて風が得意な竜ノ助!不可欠!

 


余談

真面目な話した後であれなんですがアヅキ世代ってほんとに乙女ゲーっぽいと思う。

乙女ゲーっぽい=逆ハーレム・1人の女を皆が好きになって取り合う、っていう意味じゃなくて…なんかこう

※あくまで個人的なイメージなので人によって定義が変わる部分です※
『1人の女(主人公)』を中心に人間関係が構築されていて、タイプは違うけどそれぞれのベクトルで主人公に影響する男が複数いて、更にその男キャラ同士にも面白い関係性がある…みたいなものを見ると『乙女ゲーっぽい!!』って思うんですよ(←恋愛感情無くても)

だからアヅキ世代はすっっごい乙女ゲーっぽい

竜ノ助&大也のあの、友達じゃない・仲良しじゃない・嫌いでもないが無関心でもない、『どうして喉から手が出るほど欲しい能力を持ってるのがお前なんだ』って思っていたり、裏返すとそれは実力やストロングポイントを認めているということでもあったり、

面倒くせーヤツら…とか思いつつ嫌いではなかったり…そしてその関係は『アヅキを中央に挟んでこそ生まれたもの』だ。みたいなところが本当〜〜に乙女ゲー文脈の男同士の人間関係っぽい。

 

更紗世代だって女男男だったし、恋愛っぽく見えることもしてたけどあれは全然乙女ゲーっぽくないもんね。

アヅキ世代以上に乙女ゲーっぽい世代存在しないと思う。(トヤマ一族内調べ)

サブに凶悪顔の暴走族とか、元ヤンで尻尾振って慕ってくる舎弟が出てくるところもすっごいそれっぽい。竜ノ助大也が同級生だとしたら先輩後輩枠やん(後輩枠年上のおっさんだけど)

攻略対象だった時の大也、最初から好感度高いのに何故か攻略難易度は誰よりも高いんだろうな~。

 

…謎の与太話すいません。俗な言い方をすると竜ノ助大也アヅキの『一般メジャー作品でこういう関係性あったらカップリング論争めっちゃ割れてそう』なところがすげえ好きなのでそれを何とか言語化しようと頑張ったら学パロの話みたいになってしまった。

実際のアヅキ世代は乙女ゲーでも学パロでも恋愛関係でもないし私は特にカプ萌えしてないしこのバランスで存在してる3人最高宗教をやらせていただいております。何の話だ

こんなに文脈が乙女ゲーなのに野郎衆の中に正統派のシュっとした美形が存在しないところがなんか面白くて好きですね。アヅキ世代…好きだな


次回(葉菜子)▶︎2/28更新予定

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