徳甲一族 英霊の歌

マンガ描いたりしつつ俺屍Rをじっくりプレイする記録

一族あと語り / 06 大也

1年越しの徳甲一族キャラ語り 第6回になります。
これ何?という方ははじめにを御覧ください。

大也-沿革

 

黄々と根来ノ双角の子供。

 

鎧兜を身に纏う立派な武人の神、そんな父を尊敬する逞しい男児。

『武人とは主に仕え尽くすものだ』そう考える彼は、幸運にも主に恵まれた。誰よりも気高く、美しく、正義を胸に持った…そんな主を、天は彼に与えたのだ!

彼は敬愛する主の盾となり、矛となることを誓った。愚かしいほど真っ直ぐに。それは短い生を受けた彼の唯一の望みだった。

 

…しかし天は彼に『才』を与えはしなかった。

世話役・イツ花の見立てでは主よりずっと才覚があるとされた大也だが、いくら鍛えても槍は鬼の急所を貫くことができず、どれだけ勉強しても皆ほど術を扱えず。
それ故に術の受け流しも不得手だった彼は、隊を守護する盾としても不適合であった。

 

敬愛する主は、公平で判断力に長けた人である。彼女は竜ノ助に切り込みや術をいなす役を任じ、大也には後方支援を命じた。

悔しい気持ちが無いと言えば嘘になる。しかし、大也たちの資質を理解した上で的確に陣形や役割を決定できるからこそ、アヅキは大也の敬愛する主なのだ。
大也はそんな主に応えるため、自分にできることを一生懸命に努力した。愚かしいほど、真っ直ぐに。

 

 

大也にとって、アヅキはこの世で最も美しい人だった。外見だけの話ではない、魂が美しいのだ。

両親に愛されずとも、黄々に貰った愛をいつも大切にしていた。京の町を愛し、民を愛し、人の痛みを自分の痛みのように感じてしまう人だ。どうしようもなく薄汚いごろつき共にすら、彼女は手を差し伸べた。

その瞳は純粋で、真っ直ぐで、剣筋はその魂を映したかのようにしなやかで力強かった。

彼女はこの世で最も美しく、尊い人なのだ。
かつての大也は純粋にそう思っていた。

 

しかし、いつだっただろう。人や物事は変わっていくもので、真白い着物ほど汚れやすく、何もかもが理想の姿を保ったまま時が流れることなど無いらしい、ということを知ったのは。
少なくとも、幼き日の大也は知らず、故に意識したこともない事だった。

 

『…いつまでも変わらず、穢れることなく、そのままの美しい姿で在ってほしい。』

 

いつしか大也はそんな願いを持つようになっていた。

アヅキは美しく気高い人だが、同時に一人の少女であることも大也は分かっていた。全てを背負わせるにはあまりにも小さい背中であることを知っていた。

だから大也はそんな彼女を守りたかった。彼女の命を、誇りを、美しさを、そしてその純粋さを守りたかった。

しかし幾度考えようと答えは同じだ。アヅキを守れるのも、背中を預け共に敵に切り込むのも、彼女に足りない部分を補い、背中を押すことができるのも、自分ではない。竜ノ助だ。竜ノ助なのだ。

不真面目で、小器用で、俗で、アヅキが持ちえない種の強さの全てを持っている、竜ノ助なのだ。

 

 

 

――彼女の美しさを守りたい。そう思うならば、この選択は間違っているのだろう。

 

三人で挑む最後の戦い。九重楼の終階にて

大江山攻略に向け、アヅキたちは各地の親玉と相対してきた。最後に残っていたのが『雷電五郎・太刀風五郎』だ。

アヅキたちは大江山を攻めることが叶わない。ならばせめて、この戦いまでは3人で成すこと…それは彼らの矜持を賭けたものであったかもしれない。

しかし、初めて邂逅する彼らは未知の敵だ。感じる気はこれまでの親玉を遥かに超えており、出会った中で一番のつわ者であることが分かる。

手の内が知れない強敵を前に、大也は己を盾にする陣形を進言した。

アヅキは躊躇ったが、竜ノ助の助言もあって大也の願いを聞き入れてくれた。

彼女ならきっと自分の気持ちを汲んでくれるだろう。…そう思って進言したのだ。人を思いやれる、優しい人だから。

 

――だが、やはり自分は力不足だった。

竜ノ助ならあるいは、この鬼の強烈な風や雷を正面から食らっても凌ぐことができたのだろうか。やはり、彼女を守れるのはお前なのか。

 

自分がここで無様にくたばることの意味は分かっている。彼女の真っ直ぐな瞳を、美しさを曇らせ、奪ってしまうかもしれないと言うことだ。守りたいものを守るどころか、自ら破壊する行為だ。

それでも、それでも…

大也が最後に見たアヅキは、とても美しかった。動揺し、叫び、泣きそうになりながら、それでも彼女は美しかった。

 

…いつからか大也は、その本心や想いを胸の内に仕舞い込むようになっていた。本当の気持ちの一分も彼女に伝えられていなかっただろう。何も言えなかった。言葉が足りなかった。あまつさえ、最後にこのような進言をして…結果は無残。本当に、本当に申し訳ない。己はきっと誰よりも罪深い

 

だけど…それでも彼女は最後まで美しかった。美しく、気高く、尊いその姿を見せてくれた。

初めて出会った時に感じた、「守りたい」という想いを最後まで守ってくれた。守りたいと思える人のままでいてくれた

だから――――…

彼は最期に主への感謝の言葉を告げ、瞼の裏に彼女の姿を収め…こと切れたのだった。

 


大也について

※ゲーム的な話はエンドロールAでしたので『プレイヤー的判断は一旦度外視して、結果を見てキャラ目線の話にだけフォーカスした』的な語り

徳甲大也は語らない

大也は本当〜〜〜に……勝手なやつだと思います。

勝手と言っても優しく無いとか傍若無人とかそういうのじゃ無いんですが。マジで拗らせたエゴの塊というか、でもそのエゴをあまり表には出さなくて、言わない。『言わないまま逝ってしまった』のが本当に勝手なやつだ…お前は…と思う。多分竜ノ助もそう思ってる。

大也の真意を知る者は登場人物中には存在しないので仕方ないんですが

だからマンガでハッキリ描く機会がなかったし、私自身もあまり彼のそういう部分に突っ込んだ話ができていなかったと思います。言わねーんだこいつ…赤イズム(言わなきゃ分かんない)の反逆者だから…

 

大也は何故変わったのか

正直言うと大也に関しては脳内で補完してでも表に出さずにそのまま仕舞っていたことがけっこうありました。

というか『天然純朴武人キャラ』だった大也、私もよく分からないうちに『割と世の中の汚い部分を知ってて、その上でアヅキ殿に尽くしている激重男』になっていたんですよね。

『大也の変化』が一番見えていたのは竜ノ助だと思うんですが、なんだかアヅキ世代においては竜ノ助が一番『観客カメラ』っぽい位置にいて面白いなあと思います。
彼の目線を通すことで、大也が『何も考えてないアホ』から『変わっていた』ことに気付いたので。

 

そして、『どうして彼は変わったのだろう』という理由を考えた結果、出せる場所が無くてそのまま埋まってしまった感があります。最後なのでそれを出していこうかなあと

 

当時色々考えたんですよ大也のこと。何故彼は『純朴武人』からあんな最期を遂げるに至るほど変わってしまったのか、について

それで浮かんだのが以下のような流れです。

①徳甲大也は真っ直ぐに主を敬愛する、純朴で純粋な武人の少年だった。

②『荒れた京の空家とかで昼間っからお盛んに致している女』とかそういう感じの、『純朴すぎる武人少年』にとって衝撃的すぎるものにうっかり遭遇してしまう。
その瞬間、吐き気を催すほど不快に感じてしまった。

③そういうことがあったり色々あって『人間の汚い面』を知ってしまった結果、アヅキが清らかで美しいことをより特別に感じ始める。

④アヅキに永遠に美しい存在でいて欲しいと思った。その思いがどんどん拗れていった。

⑤アヅキに見せたくないようなものを見せないようにこっそり動いたりもしてた。(ゆえにアヅキはずっと俗っぽい知識が著しく欠けていた)

⑥このことをアヅキにも竜ノ助にも、何も言わなかった

→九重楼の結末と遺言へ

こんな感じ

元々大也はけっこう度を超えた純朴さを持っていて、だからこそそれを失ったことで大分内面を拗らせてしまった人…みたいなイメージです。

めちゃくちゃ俗な言い方をすると『純粋で無知だった故に強火の処女厨になっちゃった人』みたいなところはある…のかな。

…というようなことを考えていたんですが。

経緯がまあまあゲスいし、既に大也が生きていない&誰も本当のことを知らない現状語るタイミングも無いし…、ということで今までどこにも書いたことなかったです。書いちゃった

大也がいなくなってからリアル時間2年以上経ったからこそみたいなところはあるかもしれない。
一応大也の最期のマンガには仕込んでた内容ではありました(わかりやすく描写するつもりはなかったけど)。語れるタイミングが無かったんですよね。

大也、言わねーんだもん!!言わない人の内面は語れないよ~!いやまあそりゃあ言えないだろって感じだけど…

 

徳甲大也のエゴと、絶えず美しい世界

大也、理性はあるので自分のエゴをある程度は理解していたと思う。だけど、あの九重楼途中で自分の衰えと死期も感じて(体ランクアップ0)『アヅキと一緒に戦えるのは本当にこれが最後』と思うともう抑え込むことができなくなったんだろうなあ。

『主を持つ武人としての生き方を貫きたい』反面、『自分がどこまでやれるのか(限界を知りたい)』そして『アヅキはどう答えるか、どんな顔をするか、知りたい、見てみたい』…みたいな気持ちが湧いてきたんじゃないだろうか。

だから、最前線に出ることを進言した。

大也が『戦死の可能性があるような無茶をすること』って、ともすればアヅキを変えてしまうかもしれないんですよ。彼女の顔を曇らせ、真っ直ぐさを曲げてしまうかもしれない。

それこそ、例えば血潮のように性格が変わってしまうかもしれないし、更紗のように意気消沈してしまうかもしれない。

それでも大也は前に出ました。それは表向き『前衛の盾として主を守る生き方をさせてほしい』という意思だったけど、『アヅキの純粋な美しさが揺るがないかどうかを、己が命で確かめたかった』の、かもしれない。

エゴなんだよなあ。

 

そして、こと切れる前に一瞬意識を取り戻した大也はアヅキを目にすることができました。彼女は取り乱していたけれど、大也が守りたかった美しさを宿したままだったんでしょうね。これは多分大也の直感というか、言語化しにくい感覚の話なんだろうけど。

アヅキの美しさは失われない、最後まで輝き続けるものだ。よかった』と大也は感じたのだと思います。

小さくて、弱いところもある、感情的にもなる、でも幼き日に見たあの清らかさと美しさは変わらないものだと確信して

『(そんな守りたいと思える貴方でいてくれて、)ありがとう』と。

エゴなんだよなあ。アヅキにとっては残酷なことだよね。

 

その後のアヅキは大也や竜ノ助の死で折れることなく、自らの命が尽きる日まで誇り高く真っ直ぐに生きていこうとします。大也の理想の美しい人そのままの姿でね

別に直接『そうであれ』と言われた訳ではないけど(大也はとにかく言わないので)、アヅキは大也の望んだような美しい姿で立ち続けました。

アヅキの魂は確かに美しいものなんだけど、最早呪いじみたものを感じてしまうよ。
いっそのこと血潮や更紗のように折れてしまった方が良いんじゃないかと思えるほど…いや、アヅキは折れない、折れることができないんだよな。だからアヅキはアヅキなんだよな~。

 

しかもそんなアヅキは一族最長寿記録を達成して大江山開山&討伐隊入りすることに。その結果鬼朱点の真実を知ることになります。
それでもアヅキは高潔さを失いはしなかったのだけど。アヅキの話はアヅキの項でするとして…

大也は当然、自分が死んだ後に敬愛する主が長生きして真実に直面することになるなんて知らないんだけども。

 

拗れ

大也の『勝手さ』とは、狂って我欲を通すことだけ考えたような『勝手さ』ではないんだよな。
寧ろ大也の人生って『我慢して、表に出さず、努力して…』の繰り返しだったように思います。

大也は生まれてからずっと自分のままならなさを感じていました。竜ノ助のことは決して嫌いじゃないけど、正直死ぬほど羨ましい。欲する者に才能は与えられず、大して欲してもいない者に才能が与えられているという事実は本当に恨めしかった。

でもアヅキ殿を尊重するからこそ、彼女を守り彼女の役に立ちたいからこそ、彼女に与えられた役割を全うしようと頑張りました。文句の一つも言わず、めちゃくちゃ努力していました。(生涯厄払いの槍で苦手な技を底上げしていたし、戦闘ではいつもきっちりサポートをこなしていた)

竜ノ助がアヅキについて我関せずな態度を取るとイラつくことはあったし、交神の時期につい怒鳴りつけてしまったこともあった。

だけど、やっぱり頭は認めてたんですよね。『こいつの存在がアヅキにとって無くてはならなくて、自分の持ち得ない力(戦闘能力じゃない部分含め)を持ってる』ということを。

 

一方で、前項で書いたように(別軸として)精神が少しばかり成熟してしまったことで彼の中でアヅキの女神化というか、偶像化みたいなものがどんどん進んで行ってて…という。

一言で表すなら大也、2つの方向でめちゃくちゃ拗らせていたんですね。

『(アヅキを支える能力という意味で)竜ノ助に対するコンプレックス』『アヅキに純粋で美しいままで在って欲しいという願望』この2つね。

 

大也、竜ノ助に対してもっとフランクに軽口的に羨望や文句を吐き出せたり、アヅキ殿への崇拝感をオープンにできる信者ならここまで拗れなかったんだろうなあ。

でも大也の最期の言葉は「いつも言葉が足りなかった」であり「今も何も言えない」であり…大也、『言わない』んだよ。マジで

 

正確に言えば竜ノ助に対してだけはその片鱗を見せていたんですけどね。大也に理解者はいないけど、なんとなく彼がややこしい感じになってるのを察せる人が居たとしたら竜ノ助だけなんだろうな。

でも竜ノ助はそれを深く追及する性格じゃないからね〜。

 

大也と後世の一族のこと

アヅキ世代って血潮世代のように明確にボタンのかけ違いを起こして大沈下を起こしたりはしていないんだけど なんだかおかしな因果が絡まりまくってるなあ…と感じます。

個人的にアヅキ世代の結末をポジティブ/ネガティヴ判定するとすれば『どちらとも言えない』って感触ではあるんですが。

 

振り返ってて思うんですが、『腹の中に抱えてるものを言えるかどうか』って徳甲一族補完創作ワールドにおいて最も重要なポイントなんだろうなあ。

私的にはなんでもかんでも素直に言えば良いってもんじゃないとは思っているので、極端なオープンマインドが正しいとは思ってない前提の話になるんですが。

しかし結果として『明確にポジティブな感じで幕を閉じた』と言える世代(火輪/赤/更紗)はどこも最終的に『言いたいこと言える(最終的に言えた)』人たちだったと思うんですよね。

何より、『言いたいことをハッキリ言える人』はみんな性質は違えど強い存在だったなあと。

 

それは血潮や赤の遺言にも表れていて、血潮は『腹に溜まってるもんを吐いてから行こうと思ったけど(=言えなかった)』であり、赤は『想いは素直に口にしちまえ(=言えてた)』だったりね。

大也の『言葉が足りなかった・何も言えなかった』は上記の二人の遺言や、後世の人たちの色んな出来事を経て振り返ってみると初見時よりもよりズシっと来ますね。『言えなかった』人なんだよなあ大也は

 

大也のことを考えていると、『言わないんだもんな…大也は…その拗らせ感情とエゴを全部内側に押し込めてさあ…』と思っちゃうんですが、『ちゃんと言っていけよ!馬鹿野郎!』とは思えないんですよね。

 

余談

これは完全に余談なんですが、この記事を編集しながら画像を選定していて

この、最期の戦いに臨む大也

これにめっちゃ構図似てるな……って思って「わ~…」ってなってました。

私は別にこの二人に何か通じるものを見出しているとかそういうのは特に無いんですが。(というかこの背中を見せる構図っていうのは血潮や赤から継承したもののつもりだったんですが)

こう見ると、そういえば徳甲の男槍使いってこの二人だけだったなあと。

その二人が二人とも、『最後の戦いで守り役として前に出てた』っていうのは不思議な縁を感じちゃいますね。

そしてその結果が『才覚的に不適合で倒れることしかできなかった大也』と『全ての攻撃をカットしてみせた緋ノ丸』となっているのも何とも言えない気持ちになってしまいます。


次回(アヅキ)▶︎2/25更新予定

© 2024 徳甲一族 英霊の歌

テーマの著者 Anders Norén