徳甲一族 英霊の歌

マンガ描いたりしつつ俺屍Rをじっくりプレイする記録

一族あと語り / 26 ルリオ

1年越しの徳甲一族キャラ語り 第26回になります。
これ何?という方ははじめにを御覧ください。

ルリオ-沿革

 

燕九朗と太照天昼子の子供

父親

その少年にとって、天界は最悪なところだった。

『最高神の子供』として丁重に扱われてはいるが、それは同胞への対応では決してない。自分たちとは違う『異物』『忌まわしい何か』。…そんな視線を、態度を、少年は感じていた。

物陰から天界人の会話に聞き耳を立ててみると、どうやら自分は忌まわしい朱点童子に近い血を持っており、そして顔が少し似ているらしい。

生まれたばかりの一族は、その短命の性質上成長速度が異様に早く、特に幼い頃は凄まじい早さであらゆるものがよく伸びる。
髪が伸びるのも早いため、小まめに切り揃える必要があるのだが……少年はそれを拒否するようになった。

『朱点童子に似た外見』になるのが嫌だったから。

それに、前髪が長ければ自分を異物として見てくるあの連中を目に入れなくて済む…と思ったからだ。

手入れされていないボサボサの長い髪を揺らし、少年は一族の屋敷にやってきた。

父親に当たる人物は寝込んでいて、何をしても起きてはこなかった。
少年は思う。母も父も、自分のことなどどうでもいいんじゃないかと。

 

一日ほど経った後、父親が目を覚まして息子の顔を見にきた。
前髪で両目を隠した少年は更に俯き、顔を逸らす。口だけは「今更なんだよ」とか、反抗的なことをボソボソと漏らしている。

父親は少年の目線までしゃがみ込み、前髪を暖簾のようにぺらりと捲った。

初めて見る『起きている父』の顔は真っ青でやつれきっていたが、にも関わらずどこか余裕のあるような、天界でも京の町でも見たことのない表情をしている。

彼は少年の目を真っ直ぐ見て、フっと笑い、言った。

 

「ルリオ」

 

最初は何の言葉か分からなかったが、ややあってそれが自分の『名前』だと言うことに気付いた。
父に呼びかけられた瞬間、生まれ落ちたその時からその名であったかのような、不思議な親しみを感じる。

 

父はしゃがんでいた体制からふらふらと立ち上がり、「訓練つけるよ」と言った。意識を保てる時間が短いので、この間にできるだけ教えるとのことだ。

彼は、天界や京の人々とは全然違う目でルリオを見て、にっと笑う。
どれだけ反抗的な口をきいても、柔らかに受け取って、少しからかうような言葉を返してくれた。跳ね返すでもなく、避けるでもなく、ルリオを見てくれるのだ。

父は、ルリオの髪型も直してくれた。

切れとは言わなかった。伸ばした前髪を器用にバランス良く分け、後ろ毛は後頭部で一括りにする。
鏡に映った自らの髪は『朱点童子の特徴』と聞いていた形からは離れていたし、何よりとても格好が良い。

 

素直にそうと口にすることはできなかったが、ルリオは父が誰よりも好きだった。

 

 

同じ涙を持つ男

父のことは好きだったが、父が連れてきたという『世話係の男』のことは好きじゃなかった。

戦いも勉強も教えられないような鈍臭い一般人のオッサンだ。
ルリオはそもそも外部の人間が嫌いだったが、それ以上にヤツが『父の代わり』であることが嫌で仕方なかった。
父の代わりがこんな冴えないオッサンだなんて、どう考えてもおかしいじゃないか。誰が言うことなんか聞いてやるものか。

何故父はこんなヤツを連れてきたのだろう。

 

父が死んだ。

一日のうち半刻から一刻程度しか目を覚ますことが無い父の死が何時(いつ)だったかは分からないが、様子を見にきたイツ花や当主が確認して、死んでいることを告げた。

なんだか信じられなかった。

本当はまだ死んでなんていなくて、しばらくしたらまた起きてくるんじゃないかと思える。

だが、父の肌に触れてそんなことはあり得ないのだと実感させられた。
生きていた時とは全然違う、無機質な冷たさだったから。

 

その冷たい感触が、父が目を覚ますことは二度と無いという事実が、最後に交わした会話で憎まれ口を叩いてしまった記憶が、大切なことを何一つ伝えられなかったことが、ルリオの中でぐちゃぐちゃになって、涙が溢れた。止めたくても、止まらなかった。

だのに、同じ父を持つはずのまつりの表情は一切変わっていなかった。声の調子も一定で、いつも通り、抑揚のない調子のまま。

信じられない。こいつはおかしいと思った。自分とは違いすぎると思った。それとも、自分がおかしいのだろうか。

ふと顔を上げると、父が連れてきた世話役のオッサンが泣いていた。顔をぐしゃぐしゃにして、涙を抑えようと手のひらを当てて、それでも止めどなく溢れ出てくる。

その姿はルリオと“同じ”だった。その男は、父が死んだという“同じ”理由で、“同じ”涙を流していたのだ。

 

 

嫌いなもの、違うもの

緋ノ丸のヤツを見ているとイライラする。

図体ばかり大きく戦ではモタモタしていて邪魔だし、いつもウジウジしてハッキリ物を言わないし、そのくせ死にかけの母親が惜しくて諦め切れないみたいな態度。

オレの父さんは家に来てひと月足らずで死んだんだぞ。オレは『朱点童子を倒すことができれば或いは』なんて選択すら持てなかったんだぞ。
緋ノ丸を見ているとそんな気持ちが沸々と湧いてくる。存在が神経を逆撫でしてくる。

 

実の姉・まつりも嫌だった。ただただ、何もかもが理解できなくて嫌だった。

世代交代してから数ヶ月経った時のことだ。奴は『緋ノ丸は替えが利く存在だから、死んでしまっても問題無い』というようなことを言っていたのだ。

ルリオは緋ノ丸を見るとイライラする…が、『死んでも良い』なんて考えたことはなかった。

他者を駒か何かとしか見ていない冷徹な人でなし。気味が悪くてたまらない!

ルリオにとって姉は紛れもなく『異物』だった。

 

鬼の巣窟で出会った“仇敵”朱点童子も最悪なヤツだった。

迷宮の深部で相まみえた時、一族は鬼と同じような存在だとか、呪いが解ければ人間になれるなんて思い違いだとか、そんなことを言ってきたのだ。

嘘だ。嘘だ。嘘だ。
コイツは敵だ。だから、根も葉もないような話で自分たちを惑わせようとしているだけだ。

自分は人でなしの姉とは違う!
自分は醜く残虐な鬼とは違う!
自分は『朱点童子』なんかとは違う!

 

…だけど、自分は『普通の人』とも違う。

 

………。

 

 

同じヒト

一族は夏の朱点童子討伐隊選考試合に出場した。

良い武器が賞品になっていると聞いて参加を決めたのだが、遊戯会みたいな会場で帝や群衆に見せるだけの戦いなんて嫌で仕方なかったし、一族が圧倒的な力で試合を終わらせる度に上がる観客のどよめきが不快でたまらなかった。
今、自分たちは異物として見られているんだ。

そんな中でも、圧倒的な力を見せつけたまつりはとびきりの異物だった。本人は相変わらず平然としているが。

 

選考試合の最終日。決勝戦を終えた後、閉会の式を蹴って誰にも言わず会場を出た。
これ以上奇異の目を向けられることも、あの姉の横に並ぶことも嫌だったから。

 

だけど、ルリオを探して追いかけてきた大将のオッサンとその場で問答になってしまった。ルリオがまつりのことを『冷血な人でなし』と言ったからだ。

ルリオはムカついた。どう考えてもまつりの方がおかしいのに、何故こいつは自分にばかり小言を言うんだ!

瞬間的に頭に血が上り、自らの肩に置かれていた腕を掴み、思い切り振り払った。
自分に触るな、近付くな。それだけのつもりだったのだ

力のこもったルリオの腕は思い切り大将を投げ飛ばしていた。彼の身体がふわりと宙に舞ったかと思うと、次の瞬間には少し遠くに積まれていた木材が大きな音を立てて崩れる。

ルリオはそこまで強い力を込めたつもりもなかった。なのに、これだ。
それは、ルリオが彼とは『違う』生き物であること、ルリオがまつりと『同類』であることの証明のように思えた。

物音を聞きつけた人たちが集まってくる。皆が自分に注目し、何かを口々に喋っている。その視線が、その声が、何もかもが『自分という異物に対する糾弾』のように感じられた。

 

大将は命こそ無事だったが、全治に何ヶ月もかかるような大怪我を負ってしまった。

まつりは相変わらず淡々としているが率直にルリオの過ちだと良い、いつもは適当に大笑いして場を和ませようとする一番星も曖昧な笑みを浮かべる。あの緋ノ丸すら、投げ飛ばすに至った経緯を聞くと『ルリオに非がある』と言うのだ。

世界の全部が自分を責めているようだった。
そもそも悪いのは人でなしなまつりのせい、のはずなのに。

…いや違う。

悪いのは、誰がどう見ても自分だった。

 

 

 

なのに、被害を受けた張本人だけがルリオを責めなかった。

大怪我して、当たりどころが悪ければ死んでいたかもしれないのに。
一族のように痛みに耐性があるわけじゃないから、めちゃくちゃ痛かったはずなのに。

普通は、怖くて怒る。逃げ出したくもなるだろう。
…もしかしたらこの男は、怪我が治ったら出ていってしまうんじゃないだろうか。

 

色んなことが不安になって、怖くなって、ルリオは彼に対して胸中を吐露した。自分は普通じゃない、と。だって、普通のやつは軽く振り払うつもりで人を投げ飛ばしたりしないから。

だが、大将はその言葉を否定した。ルリオは普通だと言った。何が普通なのかと問うと、『加減の仕方を知らずに怪我をさせてしまったりするところが、普通のガキと同じだ』と答える。

『自分もそうだった。』

そう続けた。

ずっと人を傷つけ続けた自分と違い、ルリオはこうして一度で過ちに気付いた。だからもう、良いのだと。

 

自分をそんな風に『普通』と言うこの男が、どんな過去を持ち、どうしてここにいるのかが気になった。ルリオがそのことを聞いてみると、彼は全て包み隠さず教えてくれた。

自らの犯してきた罪、一族との出会い、一族からの逃避と、父・燕九朗とのこと。

その語り口は真摯で、相手が子供だから誤魔化そうとか、ぼやかそうとか、そんな意図を感じない。そんな風に曝け出された直後だからか、ルリオは自分に対する『何故最近苛立っていたのか』という問いかけに素直に返答していた。

 

ルリオは初めて素直な気持ちを、考えを、怯えを吐露した。『自分は普通の人間とは“違う”存在なのではないか』という本音の不安を口にした。

それを聞いた大将は教えてくれた。自分も何年か前まではそう感じていたが、ルリオの祖父や一族の皆と関わることで『同じ人間』であることに気付いたと。

神の力を与えられた子たち。彼らはいくらチカラが強くても、悩んだり苦しんだり藻搔いたりしながら生きているのだということを、彼は知っている。

一緒にいて、影響したりされたり、それによって傷付いたり救われたり、変わっていったりする。
その時点でもう、同じ場所で生きている人間なのだ。

何も特別な違いはないのだと、そう告げた。

 

 

小さな変化

それから何かが大きく変わったということは無かった。大将のオッサンは変わらず屋敷にいる。

ただ、怪我が治っていないので彼が担当していた雑務はしばらくお休みだ。ルリオはそれを少し手伝うことになった。

町内会が主催しているという秋のお祭りに関しても、大将は近所付き合いもあり協力の約束をしていたらしい。ルリオはそれも……少しだけ、手伝うことにした。

…そう、大きな変化は無かった。だけど、ルリオにとって小さな変化がいくつも起きたのだ。そういえば、朱点童子の嫌な夢を見ることもなくなった。

 

ある日、緋ノ丸が会議にて『全員生還を目標に戦おう』と言い、皆に同意を求めた。
ルリオは、彼がどうしてそんな当然のことを改めて宣言しているのかが分からなかった。わざわざ言わなくても、全員生きて帰るなんて当たり前だろうと思ったからだ。

緋ノ丸の提言に対して姉・まつりは反抗の意思を示していたが、緋ノ丸は『力』を示すことで彼女を従わせることに成功した。

 

緋ノ丸がいつの間にそんな力を身につけていたのか、詳しく知らなかったルリオはとても驚いた。だが、彼が披露した『無敵』の奥義も、あの頑固な姉のやり方を変えさせたことも、ルリオにとっては感心するばかりで、素直に言えば超カッコいいと思ったのだった。

オレもオレだけのカッコよくて強い奥義を作りたい!

緋ノ丸やまつりの奥義創作合戦に影響を受けたルリオは自分だけの技の開発に力を入れるようになった。

…ただ、二人に比べるとやや方向性がずれていたが。

 

 

同じ時間を共にする者

ルリオが創作した奥義はまつりから『使えない』という烙印を押されたものの、一族は決戦の準備をあらかた済ませ、最終調整や検証のために比較的安全な九重楼に足を伸ばしていた。

道具検証の一環で七光の御玉を試した際、ルリオは生まれて初めて自らの親神…母の顔を見た。
一瞬であったが、それは一族の小間使い・イツ花に瓜二つな女だったのだ。

イツ花は母と何か関係があるのだろうか、母が天界で姿を見せなかった理由とは……?そういった事が頭を回り、決戦目前だというのにやけに落ち着かない。

その事を姉に話してみが、彼女はやはり興味がなさそうだ。

知っている。まつりはそういう奴だ。家族とか肉親とか、そういうのはどうでも良いのだろう。…そう思ったのだが、彼女が次に発した言葉はルリオの予想しないものだった。

『もう会うことのない者より、その何倍もの時間を共にする者たちの方が主要な存在である』

ルリオは面食らった。それはルリオにとって『理解できる』話だったから。姉が同意できる話をしている。そんな事は生まれて初めてだった。

 

 

夜更け、姉の発した言葉が頭をぐるぐる回っていた。

『何倍もの時間を共にする人』

彼女の言うその人間の中には大将の名前も入っていた。だが、よく考えると彼は雇われのようなものだ。
日程を切り詰め、討伐に鍛錬に忙しない一族の雑用なんかをやるために屋敷に住み込んでいるだけの存在だ。

…と言うことは、戦いが終わり、一族が時間に縛られることが無くなれば彼の役目は終わるのか?
もしかして、この屋敷を出ていくんじゃないだろうか?

そう考え始めるとすごく不安になって、眠れなくなってしまった。

眠れなくて彼に問うてみると、彼は『この戦いが終わったとしても、叶うならここにいたい』と答えてくれた。
それはルリオの渇望した答えだったが、大将にとってはそれだけではないらしい。

彼は言った。
『ルリオやまつりが元気で生きていることが、自分の幸せなのかもしれない』と。

 

ルリオは、自分でもなんだかよく分からない涙が出た。父の死を認識した時とは違う涙だ。

ルリオは改めて、絶対に朱点童子を倒すことを心に誓った。

彼と、そして何より自分のために。

 

 

 

決戦、その後

朱点童子との最後の決戦はもう、筆舌に尽くし難いものだった。姉がすごい、緋ノ丸がやばい。ルリオにはそう表現することしかできないほど、とにかくすごくてやばかった。

姉は朱点童子との戦いを通して一度たりとも攻撃を食らわなかったし、緋ノ丸は無敵の陣で奴の狂気的な攻撃を防ぎまくったのだ。

かくして一族は十年に渡る戦いに幕を閉じた。倒れ消えてゆく『朱点童子だった何か』を見て、ルリオは屋敷に帰れることを思い高揚した。

 

…現実はそう単純では無かったが。

朱点童子の力を失った塔が崩落し始める。何故か一番星が身を投げるかのように奈落に落ち、彼を追って姉までもが飛び出してしまったのだ。ルリオには何が起きているかさっぱり分からなかった。

空間の崩壊は止まらない。残された緋ノ丸も、突然の出来事に呆然としているようだった。だが、こんな訳の分からない状況をなんとかできる存在がいるとすれば、コイツしかいないと思えた。だって、緋ノ丸は不可能を可能にしてきたヤツだから。

緋ノ丸をぶん殴って正気に戻し、状況の打破を促す。すると、我に返った緋ノ丸が少し考え、ルリオの予想もしない指示を出してきた。

 

「お前の波動砲を天に向かって思いきり打ち上げてくれ」

 

波動砲とは、ルリオが緋ノ丸の奥義を見てから考えた奥義だ。とにかく格好良くて強いのが作りたくて練り上げた、『弾丸ではなく光の粒子で鬼を攻撃する技』だ。実弾じゃないから、貫通して複数の鬼を撃ち抜ける代物である。

…が、発動に時間がかかりすぎるだの、散弾銃より範囲が狭いだの、それだけ制限をかけているにも関わらず肝心の威力が足りないだの、まつりには散々言われ、実質的にお蔵入りしたものである。

これを天井に向かって打ち上げる?何を言っているんだろう

 

普段なら気が狂ったのかと思っていただろうし、従わなかっただろう。
だけど崩落する空間内は止めどなく轟音が響き、緋ノ丸は至って本気だと言わんばかりの真っ直ぐな視線で見てくる。そして、当然ルリオには打開策などない。

…やるしかなかった

オレたちはここまで、コイツを信じて戦ったんだ。最後の戦いで短期決戦を選んだのだって、コイツの盾の力を信じたからじゃないか。

ルリオは幼い日に父から手渡された火神招来に、持てる力の全てを装填した。緋ノ丸もまた、彼に力を分けるように力を譲渡する為の術を唱える。

この技は発射までの『溜め』が必要だ。故に一瞬一瞬が命取りとなる戦には不向きであった。――が、今は違った。発射までに時間がかかるという事は、その間に有りったけの力を込められるということ。

おそらくそれは正に、ルリオの憧れた『最強の光線』だっただろう。今まで見たこともない極太な光の粒子が、ものすごい勢いで天に打ち上がる。

その反動で地盤は崩れ、ルリオたちは空中に投げ出された。

 

その時、地獄の天井だったどす黒い空がひび割れ、その奥に青い空が覗いた。そしてその穴から巨大な二頭の龍と、大量の神たちが現れたのだ!

ルリオには何が起きているかさっぱりだったが、ただ、これだけは分かった。

緋ノ丸はすごくて、やばい

 

 

 

巨大な龍を含む多くの神たちは、皆一族と関わりのあった者たちだった。
彼らを率いるのはご先祖と『一族への助力』を約束したという誇り高き獅子の王。そして、一族から生まれ出でた氏神・田力主である。

助けに来てくれた神のうちの一人、水を司る者が当主の指輪に力を分け与えていたとか、ゆえに緋ノ丸は微かな気配を察知できたとか、地獄は異界のようなもので侵入は易くないといった話をしていたが、ルリオには正直ちんぷんかんぷんだった。

 

ただ、姉と一番星が無事に生きて目の前にいること、龍の背に乗るという初の体験、まだ手に残る波動砲の手応えなどあり、心は高揚していた。

自分は生きている。生きて帰れる。
眼前に広がるどこまでもどこまでも広い空と大地は、まるでルリオの心を映しているようだった。

 

京の近郊に降り、待ち構えるように現れた太照天昼子…母と少しだけ言葉を交わした。自分たちや助力した神々は特に咎められることなく済んだようだ。

 

 

家路

人の世に長居できない神たちと別れ、姉を背負って京の都を目指す。

ゆっくりと、一歩一歩雪の中を進んでいった。そのせいだろうか、龍の背にいた時の高揚感は既におさまっていた。

あの波動砲で相当力を絞り出し、使い切ってしまったらしい。うまく自分の身を守れていない。いつもより外気が冷たく感じるし、手足が凍るような感覚を覚えた。

いつもより京の都が遠く感じられた。辿り着けないことはないハズなのに、何かよく分からない不安が胸の内に湧いてくる。

 

 

その時、声が聞こえた。あいつの声だった。

 

門の辺りで帰りを待つと言っていた気がするが、何故かここまで走ってきている。

彼は呪いの印が消えた額に触れ、何度も何度も確かめるように、その事実を噛み締めるかのように撫でた。
冷えきっていた肌に温かい指が触れる。それがとても嬉しくて、でも照れ臭くて、相変わらず素直にはなれなかったけれど…

 

ルリオは家路についた。これから『長い時間』を共にする人たちと共に。

 

 

 

ルリオについて

それぞれのエンディングポイント

最終世代の流れをルリオ視点で考えてみると、『本編エピローグ終了より前に“彼の物語”は完結してるところ』が面白いなあ。

 

最終世代の本編的終着点は『寿命や死』ではないので、それぞれの『エンディングポイント』があると思うんだよね。

緋ノ丸なら髪をバッサリ切ってホッシーと一緒に街を歩いてるタイミング(エピローグ5/5話目)、ホッシーならそれよりもうちょい後、まつりの場合は目が覚めてルリオと大将に触れたところ(4/5話目)だろうか。

ルリオの場合は更に前で、最終決戦後・神々と別れて雪道を歩き、おっさんの声が聞こえてハッと顔を上げたところですね。(3/5話、というか後で番外編として足した幕間部分)

ルリオだけエピローグ中盤でもうエンディング曲流れ出すレベルですよ。

ルリオと他キャラの何が違うって言うと、多分抱えている問題や課題の差なんだろうなあ。ルリオは緋ノ丸やホッシーみたいに問題を持ち越してきてなかったし、まつり姉さんが見せたような『気付き』ももう決戦前にやってるから。

もうほんとルリオは『無事に帰る』だけでエンディングなんだなあ…という。

 

 

関連余談

長々と26人分の視点沿革を書いてきたけど、各人目線になった時にそれぞれ幕引きポイントが違うっていうのが本当に面白いな〜〜って思います。

その上で考えると、『本編』の幕引きポイントは全員を見せ終わった上で半神虎の姿がチラッと見え…完!だったんですよね。誰の目線でもない、誰も見ていないどこか遠くの存在が『物語を総括する目線』ではエンディングなんだな~

ルリオの話から離れちゃうんですが、最後のカットに半神虎を選んだ理由の話

彼が唯一エピローグで登場しなかった氏神だから…というのもあるんだけど、『目も耳も機能せず、内側にある記憶だけでこの世界のどこかに漂っている曖昧な存在』である彼は凪左助の、引いては一族の残留思念みたいなところがあるな…というのが決め手だったのかもしれないなあ

最後幕引けるのは半神しかない…って思ったんだよね。

 

最後の本編補完マンガ・エピローグ③『歌』がアニメの最終回だったら、【緋ノ丸とホッシーの会話の途中からED曲がフェードイン】【ED曲&スタッフロールが流れつつ、まつりルリオ大将の会話】【ED曲終わった後のCパートで半神虎】→終わり って構成だと思う。アニオタ、こんなことばっか考える

 

ルリオの話に戻ります。

 

他者と異なることを恐れる、普通の人

ルリオ視点で物事を追っていくと、つくづく彼のキーワードは『同じか』『異なるか』なんだなあ…と思います。

ルリオはとかく他の誰かと『異なる』ことがコンプレックスなのでそういう状態や認識を恐れるし、『同じ』ところを見つけると親しみを覚えて好感度が上がるんですよね。基本的に共感値が高い人に懐く習性があります。

だから燕九朗が死んだ時、そのことで自分と同じように涙を流した大将に対してかなり親近感を覚えているし、

選考試合後に怪我させた際、大将がルリオに対して言った『ルリオのそういうところは皆同じだよ』って言葉がクリティカルヒットだった。

 

ルリオの攻略法はズバリ①彼の中の燕九朗の存在を大切にする②彼を異物扱いしない、共感できる行動を取る③でもちゃんと特別扱いはしてやる が三大原則だと思う。②と③の両立が必要なんだよね
大将は図らずもこれを全部満たしてたんだよなあ

ルリオ、自分が異物扱いされたくないのに『自分はコイツとは違う=異物じゃない』って思い込みたすぎてまつり姉さんのことめったくそに異物扱いしてたのは本当に未成熟なクソガキって感じで、褒められたものではないけど彼の性質を表してるところだなあって思います。

まつり姉さんが異物扱い全く気にしないタイプで良かったね。

ルリオがまつり姉さんと少しだけ距離を縮められたのも、『彼女の中に自分と同じものを見つけられたから』でした。

 

『共感』ってルリオにとっては本当に本当に大きなウエイトを占めている要素で、それってすごく普通の人っぽいなって思います。

『普通』の定義が難しいんだけど、平均に近いって言えば良いのかな。持ってる感覚が平均値に近い人なんだと思う。
(他の一族に比べると)ルリオの悩み方や好感度上がるポイントって一番『並』な感じというか、一般的に共感しやすいモノなんじゃないかなと。

一族みたいに特殊なものを背負ったり特別な力がなくても持ち得る感性』なんだと思う。

 

なので、ルリオって『京の一般市民の友達』できると思うんですよね。それも『親友』って呼べるクラスの友達を作れる可能性が十分あるんじゃないだろうか。

緋ノ丸なんかはエピローグ後すごく明るくなって人当たりも良くなるので『知人・友人』と呼べる存在は劇的に増えるだろうけど、その中から『心の友』みたいな人はなかなか出てこないんじゃないかなあ。

『緋ノ丸やまつりと腹割って話せる一般京民』は想像できないけど、ルリオだけはめちゃくちゃ想像できてしまいます。

最初は『なんだコイツ?』って感じで、何かをきっかけに『話がわかる奴じゃん!』ってなって、どんどん親しくなっていく…みたいなの、めちゃくちゃありそうだもん。…その分騙されたり裏切られたりもしそうなんだけども。

その両方を知ってちょっとずつ成熟して…ルリオってそういう風に人生歩んでいきそうだなあって思います。エンディング時点では友達一人もいないクソガキだけどね。

生存メンバーの中で一番『学校という縁』があって良かったな、って思うのは上記の理由でルリオですね。きっとその環境で彼にとって人生初の『友達』ができることでしょう。

 

 

ルリオにとっての燕九朗

ルリオは『共感を感じたり、自分と同じ面を見つける』と好感度上がるタイプだけど、燕九朗はこれに当てはまらないんだよね。燕九朗は割と共感からは程遠い存在だし、この親子は全然違う性質なので。

それでもルリオが燕九朗のこと大好きなのは、ルリオが『ただ肉親であるというだけ』でも情のようなものが湧くタイプだから…ってのが一つ目の理由だろうか。

ルリオ、長く愛用してたモノとか自分で作った道具とかなかなか捨てられなさそうだし(まつり姉さんは余裕で捨てる)

でも、一番大きかったのは燕九朗が『他者の性質を見極めることに特別長けた人だった』ってところかもなあ。ルリオは燕九朗のこと分からないけど、燕九朗はルリオのことが分かってるから。

燕九朗、ああいう性格だから揶揄ったり煽ったりする感じの言い方しがちだけど『絶対NGなライン』がしっかり見えてるので地雷は踏まないし。そして絶妙にルリオが欲しいものを与えてくれるんですよね。

 

それと、『いつも相手してもらえるわけじゃない』『1日〜数日間の内数時間しか会えない』っていうのも、案外と愛着湧きに一役買ってるような気もします。

当たり前に朝起きて夜寝る人の『いつも通りの起床』に毎回胸を躍らせるなんて基本的にないじゃないですか。(カンスト済くらい好意持ってる場合は除く)
でも燕九朗の場合『起きてる』って確認するだけでもう心が『嬉しい』を感じる。これって絶大な愛着効果あると思うよ…

いつでも引けるNやRは見慣れて感情薄れるけど、SSRはうおお!ってなるし大事にするじゃないですか。ルリオにとって燕九朗ってSSRだったんじゃないかな〜 みたいな。俗っぽい例えですが。

 

ルリオ本当に燕九朗好きだよなあ。

あんまこの親子のこと多くは描けなかったので、ルリオ視点で燕九朗とのこと考えるのがメチャクチャ楽しかったです。(沿革でそこの掘り下げやりたい気持ち高まりすぎて、本編に存在しない挿絵作っちゃったし)

 

 

ルリオにとっての緋ノ丸

ルリオがナチュラルに緋ノ丸に手のひら返ししてるの好き。お前初期散々ウド野郎って言っとったやんけ!っていう笑

▲ビフォーアフター

ルリオが他人に好感持つパターンについて『共感』『愛着』って順で挙げてきたけど、緋ノ丸に対してはどっちでもないんだろうな。

ルリオが緋ノ丸に感じてるのは『憧憬』だと思う。砕けた言い方するなら『マジかっけえ!!』ってやつです。口に出しては言わないし、多分ルリオ自身も無自覚だけど。(というかルリオのこういう感情って共感も愛着も含めて全部無自覚)

 

緋ノ丸が単純にめちゃくちゃ強くなった&奥義とかもヤバいしカッコいい!!ってのもあるけど、ルリオの意識変革に一番効いたのは『緋ノ丸がまつりを制したところ』だったと思う。

▲あの姉貴と真っ向から睨み合える緋ノ丸

緋ノ丸は、あの『自分が正しいと思ったら絶対譲らないまつり』と衝突して唯一意見を変えさせた実績があるんですよ。そしてその後もまつりと唯一対等にやり合えるのは緋ノ丸だけだった。

そりゃあもうルリオからしたら『すげえ奴』に映るだろうなあ。
ルリオが何喚いてもまつり姉さんは動じないし、小難しい話には付いていけない。だけど緋ノ丸はそれができる。すごい

 

『強くてかっこいい者への憧れ』。それがルリオから緋ノ丸に対する感情だと思います。無自覚だけどね

 

こうやって考えてるとルリオってあんなツンツク坊やなのにめちゃくちゃ他人に好感持つなあ!!(※なお無自覚)って感じだし、そういうところが彼らしいなって思います。

チョロいって言うほどではないんだけど、『ツボを突けば陥落は一瞬』みたいなタイプだろうか

 

 

ナチュラルに意見一致してた話

初期ルリオの『朱点童子を倒したい理由』は多分『朱点童子が憎いしムカつくから』や『単純に死ぬの嫌だからっていう漠然としたもの』だったと思います。

それが、おっさんと一悶着あって腹割って話せた翌月以降は『この家に帰ってきたいから』に自然にシフトしてたなあ。無自覚だけど

緋ノ丸が『全員生還目指そう』って宣言した時、ルリオ一人だけ『は?言うまでもなく当たり前じゃね?』ってなってたの、地味な激好きポイントだったりします。

 

 

潤滑油ルリオ

そういえばメタっぽい話になっちゃうけど、ルリオは本当に話をよく動かしてくれる人だなあと思います。

『普通に思ったことを言う、普通に疑問を持ってくれる、普通にツッコんでくれる、普通に焦ってくれる』…、尖ってない『並』くらいのリアクションをくれるの、マジでありがたいなあと。

素直に疑問を口にしてくれるキャラがいなくて、全員が『分かってる』みたいな状態で進むと色々置いてけぼりにしてしまうかもしれないので…

エピローグの神様大集合とか(一応自分なりに過去の縁とか考えて筋道立てたつもりであっても)まあ言ってしまえば超展開じゃないですか。

私も正直あそこを納得できるように描けてるかどうか分からなかったので、普通に「マジで?」って反応を示してくれるルリオの存在がめちゃくちゃありがたいな…って思った記憶があります。

もしも昼子キッズがまつり×2な布陣だったりしたら全員自分の脳内だけで処理しちゃって結論だけ言っちゃうから、会話っていう流れが表に全然出てこなくて描くのマジで大変だと思う笑 これは揚羽とかもそうかも。

 

そう言えば、父親の燕九朗は行動力や思考力でもって『意図的に状況を大きく動かせる、エンジンみたいな存在』として、話を前へ前へと進ませていく力があったように思います。(昼子キッズ2人作ったり、大将呼んできたり)

ルリオはエンジン的な力は無いんだけど、素直に話に乗っかってスムーズに繋いでくれる潤滑油みたいな存在だったなあって思っています。

 

 

バカっぽいリアクション取りがちなルリオですが、決してアホでは無い…と思ってはいます。(多分地頭は結構良い)

だけど、緋ノ丸やまつりがめちゃくちゃ頭使ってくれるので頼っちゃってるイメージあるんだよね。
あんま頭使う必要ないから使ってなくて、その状態に慣れてるというか。

だからこそ「は?」「え?」「どういうことだよ?」でトス上げてくれる(説明とかに繋げやすい)の、本当にありがたい存在ですよ…メタ的な話でアレですが。

 

そういえば、凪左助が『誰も頼れる人がいないから全部自分で背負い込もうとしがちなタイプ』だったのに対して、孫のルリオが『自分以外が皆しっかりしてるから甘えちゃうし頼っちゃうタイプ』なの好きだな。血は相当近いのに

そしてその両極端な二親等の間にいて両者の血を繋ぎ、ルリオのそういう人格育んだ要因の一つが燕九朗なんだと思うと狂おしいほど”””良”””””の気持ちになってしまいます。

ここの親子三代セットですごい好きなんだよな…。まつりはまたちょっと違う質のラインを燕九朗と繋いでるイメージ

 


次回(最終回)▶︎4/28更新予定

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