■無題 一
私の体調が明らかに傾き始めて一カ月、先月よりも身体が重い
これまでの記録を鑑みるに、私の命はもう1カ月か2カ月で終わってしまうのだろう
大地も少し調子が悪そうだった
私と大地の人生がもうすぐ 終わる
戦場から退き、大地と別行動をして一人でいると、なんだかとてつもない不安に駆られた
否定的なことばかりが頭を過ぎった
当主になってからはそんなことを考える暇なんてなかったように思う
お母さんがいなくなって泣きじゃくる私を大地が励ましてくれて
こさめさんが後を託してくれて
それからは当主として、戦場で先陣を切る者として強くあろうと、己の技を磨き、弱点を補うために考え抜いて…とにかく立ち止まっている暇なんてなかった
俯き、後ろを振り返る余裕なんて、なかったんだ…
こうやって死を前にして、戦うこともなく皆の帰りを待つという時間ができて、私は考えてしまった
考えるべきではなかったのかもしれない
「私は、大地の人生を犠牲にしながら生きてきたのではないか」
ちっぽけで弱い私がここまで当主をやって来れたのは、大地がいてくれたからだった
大地が支えてくれたからだった
私が至らない部分はいつも大地が助けてくれたし、焦ったり慌てたりした時は冷静に助言をくれた
私の当主という立場を蔑ろにしない程度に私を助けてくれた
…多分、大地ならそこまで考えた上で
頼りない私を支えるという役目がどれくらい負担になるか、考えただけで自分が嫌になった
私はなんとか当主の役目を果たせていると思い込んでいたけれど、実際は大地がいないとどうすることもできなかった場面が沢山あった
何故その時気付かなかったのだろう、何故今気付いてしまったんだろう
考えてみれば昔から、私はすぐ大地に頼ってしまっていたし、大地はそんな私を助けてくれていた
私は一方的に彼に助けられてばかりで、彼を助けることはできなかったんじゃないか
それだけじゃない
大地が私を助けるために考えたこと、行動したこと、その全てが彼から自由を奪っていたのでは?
大地にだってもっとやりたいことがあったんじゃないか?
私がこさめさんみたいに立派な当主様だったら、大地はもっと、こんな短い人生でも、だからこそ、もっとできたことがあったのかもしれない
考えれば考えるほどそうとしか思えなくなってくる
助けられてばかりで、負担をかけてばかりで、何が相棒なんだろう
私は大地に相応しい人間だったのかな
到底そうは思えなかった
「私がいなければ、大地は違う生き方ができたのかな…」
例えばさ、もっと早くに私が死ぬか、家出したりして
そしたら大地の隣が空くの
そこにもっと、もっと大地に相応しい、優秀な子を迎えて
大地とその子はお互いの能力を活かしながら、立派に一族を導いていく
その方が、その方がよかったのかな
大地、大地はどう思う?
私じゃない方が良かったかな
大地はあまり気持ちを顔に出さないからずっと平気な顔してたけど
私がもっとしっかりしていれば苦労はしないのに、って思ってたのかな
大地、ごめんね…ほんとに…ごめんね…
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