徳甲一族 英霊の歌

マンガ描いたりしつつ俺屍Rをじっくりプレイする記録

一族あと語り / 20 更紗

1年越しの徳甲一族キャラ語り 第20回になります。
これ何?という方ははじめにを御覧ください。

更紗-沿革

 

赤と下諏訪竜実の子

 

更紗の母・竜実が一族の親になるのは二度目のことだった。

竜実は『姉神』という近しく上位の存在がいるせいか、神々の中では珍しい『非常に出世欲が強い者』だった。一度目の交神による報酬で姉を超える位を手に入れた彼女は、更なる躍進に胸を躍らせた。

その為には生まれくる我が子にも立派に育ってもらわなくては。長の家系ならば尚更だ。

 

…竜実は生まれた第二子・更紗を地上に送り出した数ヶ月後、第一子の死に立ち会うことになる。その際に考えを揺さぶられることになるのだが……それは更紗にとって知らぬ話であった。

 

母は彼女に『立派な長になれ』と言った。幼い更紗にとって、その望みは全てで、呪われた人生における最大の目標だった。

 

しかし、更紗はそのことを意識しすぎた。立派で在ろう・気高く在ろうと思えば思うほど、失敗への恐れは何倍にも膨れ上がり、手足は強張る。要するに“あがって”しまうのだ。

自らの下につくはずの燕九朗などは敬いの気持ちが一切無いようで、そんな更紗を揶揄ってはケタケタと笑っていた。

 

更紗は走った。更紗は剣を振るった。更紗は勉学に励んだ。晴れの日も雨の日も雪の日も
手足の震えを止められるよう、絶対に望む結果を出せるように

徳甲の一族の長は現状世襲制を取っている。しかしそれは誰が決めたことではなく、自然とそうなってきたに過ぎないらしい。
更紗はそれが恐ろしくてならなかった。修練や勉学に励む中、『ある可能性』が頭から離れなかった。

 

『自分は本当に次の長に選ばれるのだろうか?』

 

彼女の父・赤ははっきり言って常識離れのおかしな人物だ。何を考えているかさっぱりわからないし、何をしでかすか全く予想がつかない。

 

彼女の2ヶ月後に生まれた弓使い・揚羽は長の家系ではないが、氏神…かつての長が昇天した神の子だ。
かの氏神となった者…六代目・血潮は上位神雷王獅子丸の子。正に長の家系に相応しい、気高く強き血の持ち主である。

血統で言えば現在この『王の血』により近いのは、更紗ではなく揚羽の方だ。
自分は本当に長に選ばれるのだろうか?更紗は不安でいっぱいだった。そして、人生目標の妨げになる可能性を秘めた揚羽という男が疎ましくて、疎ましくてたまらなかった。

もしも、万が一、一族の長にすらなれなかったら?全ての終わりのような気すらした。自分は立派な長になって歴史にその名を刻まなくてはならないのに!

 

…結果的に言えば、それは彼女の杞憂だったのだが。揚羽には最初から長になろうなどという気持ちは無かったし、指輪が欲しいと頼むと赤はあっさりそれを譲ってくれた。

 

更紗は一族の長になった。念願の長になった。
ついに、彼女の偉大なる歴史が幕を開けたのだ!

とりあえず、敬愛する姉・ばな奈に頼んで『継承の儀』も取り行った。過去にこんな儀式をした記録はないけれど。

そして更紗は残る『髪』二本の打倒を誓った。一族が四代かけて追いかけてきた強敵だ。これらを倒し切れば一族の未来を拓くことができるかもしれない。その暁には隊を率いた偉大な長として一族史に刻まれるだろう。京に対する鬼の脅威も多少は削がれ、民にも語り継がれるかもしれない。かの三代目のように。

見ていてください母上 更紗は立派な長になってみせます!
母上にいただいたこの力を使い、父のような圧倒的で完全な力で鬼を狩るのだ。

完璧に素晴らしい功績を打ち立てる……自分にはそれができるはずだ。だって、母上がそう言ってくれたのだから。

 

徳甲更紗は宣言通り、『髪』の打倒を完遂した。

すると朱点童子の『庭』が姿を現し、彼はそこを『決戦の地』と宣言する。
『最後』だと言う奴の言葉を鵜呑みにする訳ではない。しかし、一族は強大な敵を討ち、確実に新たな道を拓いた。解呪・悲願達成も近いかもしれない。そして、その隊を率いたのは他でもない更紗だ。

 

しかし、更紗の気分は晴れやかとは言い難かった。寧ろ、言い知れぬ不安感に蝕まれるような心地だ。

何故か?

全ては揚羽という男のせいだ。

長の血を持つこの男の存在が怖かった。だから邪険に扱ってきた。作戦会議以外のまともな会話をした記憶がない。

しかしこの男、更紗がどれだけ厳しく接しても負の感情を見せないのだ。何事もなかったかのように付き従い、自らが消耗するのも傷付くことも厭わないほどの無茶もしてみせた。

この男が怖かった。

 

整った目鼻立ち、夕陽のような色をした美しい髪…
立ち姿は芸術品のようだった。何をしていても絵になる男だ

その矢の描く線は美しかった。美しいだけではなく、強かった。正確な射撃は、細い弓矢とは思えぬほどの破壊力で鬼を射殺す。

そして賢いやつだった。ぼんやりしているように見えるくせに、難しい話にも平気で付いてくるし、着眼点は誰よりも鋭かった。

 

それだけではない それだけではないのだ。

奴には得体の知れない凄みがあった。
隊長になってから初めての『髪』討伐に際し、更紗は失敗する恐怖からなかなか一歩を踏み出せずにいた。そんな彼女を彼は真っ直ぐ見つめる彼の目には、一切の迷いがなかったことを強く覚えている。

 

最後の『髪』討伐でかの鬼にトドメを刺したのは更紗だった。堅牢堅固な骨の鬼を真っ二つにする、正に会心の斬撃だった。

しかし不可解なことに、『己が力を出し切ってやりきった』そんな実感はこれっぽっちもなかった。

何故か?更紗の会心の一撃の裏には、揚羽の力添えがあったからだ。これ以上無い程完璧に相手の隙を突き、動きを止める射撃をしたから。その結果もたらされたものだったからだ。

あのおぞましい気を放つ鬼を前にして、何故そこまで堂々と、迷いなき矢を放てるのだ。

…――何故、お前は共に戦う者の力をそこまで引き出せるのだ?

 

それは紛れもなく、更紗が渇望した『王の力』に他ならなかった。

長として立てた目標を見事達成したというのに、更紗の心は靄がかかったままだった。立派で、偉大で、歴史に名を刻む者たちに並び立てている気がまるでしない。

揚羽の方がすごい。揚羽の方が格好が良い。揚羽の方が王の力を持っている。

 

そして更紗は交神の儀において、曽祖父に当たる雷王獅子丸の下へ赴いた。

王の力が欲しい。
祖父に、父に、そして自らにも流れているはずの王の血が、もっと濃い王の血が欲しい!

しかし、誇り高き百獣の王は彼女の申し出を一蹴。更紗はかの偉大なる神の血を受け入れられる器でないと、その事実を突き付けた。

更紗も心のどこかでは分かっていた。だが必死で目を背けていたのだ。『そのこと』を認めると、彼女は彼女で無くなってしまう気がしたから。
だから諦めない。

認めてもらえるまで、何度でも、何度でも……堂々と、毅然な姿を見せ続ければ…そう思っていた。はずなのに

更紗は、雷王獅子丸の眼光に気圧され、腰を抜かしてしまった。誰がどう見ても、王に釣り合う者の姿ではなかった。

 

…それは、例えば『彼女に愛着を持つ者』であれば見るに耐えない光景だった。

天界に訪れていた我が子を陰から見守っていた下諏訪竜実が耐えきれず飛び出し、彼女に言う。

 

「あなたは長になるために生まれたわけじゃない」

 

そうだ、立派な長になんて、ならなくて良い。無理に格の高い神と交わらなくたって良い。あなたが笑って、『あの子』のように『幸せだった』と言えるようになれば、それで―――

竜実には、そんな願いが芽生えていた。それは紛れもない『愛』だったのだが

幼き日に聞いた竜実の望みを頑なに信じ、標とし、人生を賭けてきた更紗にとって、それは何よりも残酷な言葉だった。

「長になるために生まれたわけじゃない」…それは更紗にとって「生まれた意味などない」と言われるに等しい言葉なのだ。

 

更紗はその日、生きる意味を失った。

 

ギラギラしていた瞳は力を失い、うずたかく積もった矜持は全て崩れ去って、消えた。

残ったのは『一族のひと』として業務をこなし、世代交代の準備を過不足なく整えるだけの人間だけだった。そこにかつての野心や功名心に燃える八代目当主の姿はなかった。

 

自らの子に対して更紗は思う。『せめて、この子に同じ気持ちだけは味わってほしくない』

何も望むまい。それはあの子を縛るものになるから。
何かになれなどと言うまい。それはあの子を苦しめるかもしれないから。

 

しかし数ヶ月のち、更紗は知ることになる。何も望まないことが、彼に不安を与えていたことに。
望まず、期待されず、故に『愛されていないのではないか』と思われる……そんな母親になっていたことに。

望んではいけない。望まないことも駄目。私は一体どうすれば良かったのだ。どう生きれば良かったのだ…?

更紗の心はぐちゃぐちゃだった。

 

 

そんな中、燕九朗に寿命が訪れてしまった。

彼は揶揄いながらも彼女を補助してきた。全く違うところに心の在処を持っていたからこそ、支えになっていた。彼の遺品を整理しながらそんなことを思うと、どうしようもなく悲しくて苦しい気持ちになった。

自身の呪いの兆候も現れ始めた。あと数ヶ月もすれば、この身体は終わる。終わってくれる

狭い檻の中にいるかのように縮こまり、もはや最期の時を待つだけという彼女を、揚羽だけがじっと見ていた。揚羽だけが“何か”をずっと、考えていた。

 

 

 

最後の出陣、目的は子供たちの修練。

そんな討伐の休憩中、揚羽がとんでもないことを言った。
一瞬聞き間違いかと思ったが、聞き直しても耳に入るのは同じ言葉だ。

 

「結婚してほしい」

 

全く意味が分からなかった。揚羽が何か沢山の言葉で説明をしている。その全てが耳から頭の中に流れ込んできて、渦を巻いているかのようでくらくらした。

しかし、その意味は理解できない。彼の申し出はあまりに唐突で、突飛で、常軌を逸していた。

断片的なもの以上の何かを、彼女は受け取ることができない。どうやら彼は『一緒』になりたいらしい。『一緒』になって、死ぬまで『一緒』にいて、『一緒』の墓に入る。
それが、彼の言う『結婚』らしかった。

わからない わからないまま、更紗の中にもう一つの疑問が湧いた。
否、それはずっと感じていたものだ。

 

『どうしてこの男は、ここまで自分に尽くそうとするんだろうか』

 

更紗は彼を特別邪険にしてきた自覚がある。話しかけられてもまともに取り合わなかったし、「力になる」と提案されても反射的に拒絶した。
修練中加減を図りかねて…いや、彼に対する疎ましさから思わず出力を上げてしまい、殺しかけたことすらある。

それは良くないことだ。そんなこと、更紗自身も分かっていた。だけど、更紗は彼に謝罪の言葉も感謝の言葉も伝えたことはなかった。

心から嫌悪していたのか?違う そんなことはない。
だって、更紗に彼を嫌う理由など無かったからだ。

ただのちっぽけな意地だった。
自分より遥かに悠然としていて、強い長の血を持つ彼の存在が疎ましくて、羨ましくて、妬ましくて、そんな粗末な反抗をすることしかできなかったんだ。

揚羽は更紗を嫌うはずだ。嫌悪だけじゃない、憎悪しても何らおかしくはない。その方が道理にかなっている。

なのに何故だ 何故、彼は嫌い離れるどころか近寄ってくるのだ。共に在ろうなどと言うのだ。嘘偽りない真っ直ぐな目で

 

しかし、更紗が何と言おうと揚羽はその姿勢を変えることはなかった。彼は更紗を欲した。更紗と、彼女との繋がりを欲していた。

何も理解ができなかった。今の更紗には解らない。解らない。わからない けど

その時更紗は、限界をとうに超えていた。とっくに“だめ”になっていた。
自分が何者なのか判らなかったから、誰かに繋ぎ止められないと己の形を保てなかった。

どう返しても「更紗と共に在りたい」と言う揚羽の差し伸べる手を拒む力など、彼女には残っていなかった。

 

彼の胸は、唇は、手のひらは温かかった。自分の渇き、凍え、寂れた世界が満たされていくような感覚を覚える。

 

そうして、余命ひと月と予想される更紗と揚羽は『結婚』したのだった。

 

とは言っても、特別なことは何もしなかった。儀式は金と人と時間がかかる。それよりも、共に在ると言うことが何より肝要だったから。

戦線を退き、寝食を共にした。共に同じ桜を眺め、町へも出かけた。同じ時間を過ごした。ただ、それだけだった。
ただ、隣に揚羽がいて、今までと違い彼を受け入れる自分がいた それだけだ

それだけのことなのに、更紗はまるでこれまで生きてきたものとは違う世界にやってきたかのような心地だった。

 

呪いによって体力が落ち、時折立ちくらむ。それなのに、以前よりずっとずっと呼吸が楽になった気がする。

ご飯はこんな味だっただろうか。眠りとは、こんなにあっさりと落ちることができるものだっただろうか。
空はこんなに青かっただろうか。桜という花の色は、こんなに美しかっただろうか。

 

隣の揚羽は柔らかく笑った。更紗より早起きして、寝顔を眺めるのが好きなのだと言う。縁側でゆっくりお茶を啜りながら、嬉しそうに更紗の知らない話をしてくれる。
彼は、こんな顔だっただろうか。こんな声だっただろうか。

徳甲揚羽とは、こんな人だっただろうか。

 

全てが真新しく感じた。全てが愛おしく思えた。

 

緋ノ丸には、かつての自分ならば絶対に秘密にしていたであろう、小さな失敗談のことを話した。そして、これまでどう話せば良いか分からなかった気持ちも伝えることができた。

少しだが竜実とも話ができた。彼女は、更紗のことをとても心配していた。

――誰かに気持ちを伝えるということは、こんなにも容易いことだったのか。

 

先に倒れたのは更紗の方だった。揚羽は、最期の瞬間まで側にいてくれた。更紗を置いていくことなく

ひと月前はただただ混乱していた。彼の言葉を受け取らざるを得なかった。自分が彼の好意や慈愛のようなものを受け取って良い人間とは思えていなかった。

 

だけど、今なら少し解る。揚羽は、この男は、けっこう自分勝手で、我儘なのだ。ただ彼は彼自身の為に私を欲したのだ、と。何となくだが、そう思えた。

それでも、揚羽は自分を受け入れてくれた人だ。狭まり切った視界を強引にこじ開け、美しい世界を見せてくれた。おそらくこれは、愛しいという気持ちなのだろう。

 

彼は腕の中で自分を看取ろうとしている。本当に、世話になりっぱなしだ そう思った。

だけど今は『思うだけ』ではない。それを仕舞い込む私はもういない。彼が変えてくれたから

だから、今なら躊躇うことなくこの言葉を紡げる。

 

「ありがとう」

 

 

更紗について

更紗の自己肯定感

こうやって更紗の目線で書いてると、本当に彼女は火輪と正反対の人だな!と思いますね。見ている地点は『人の上に立つこと』なので近いものがあるのにね。

違いは何か考えてみると、やっぱり『自分で自分の力や存在を認められているかどうか』だろうか。

火輪は戦闘能力や基礎スペックは正直言って微妙なんだけど、『状況を否定せず、それでいて肯定的に解釈する』ことに長けているタイプだった思う。
一方で更紗はどれだけ本人のスペックが高くても『自分の力を自分で認めることができず、他者と比較し、失敗を恐れてしまう』タイプ。

 

更紗 どうしてそんなに自己肯定感が低いんだ…強いし、人が羨む程度の容姿も持ってるし、ちゃんと結果も出したじゃないか。と思ってしまうのだけど、更紗にとってはそうじゃないんだろうなあ。

 

正直、更紗がこういうメンタリティでいる限り、例えば『髪七本全抜き』や『朱点童子打倒して悲願達成』、もっと派手に言えば『世界中に崇められるような王様』になったって自己に対して肯定的になることは無かったんじゃないか、とすら思います。それほどに彼女は他人と自分を比べてしまうし、失敗を恐れてしまう人だったから。

『仮に上り詰めたとしたら今度は転落を恐れるようになる』ような人だと思います。

 

でもきっと、火輪に比べたらずっとよく居るタイプの人なんじゃないかな。更紗はちょっと極端めではあるけど。

でも『実力も実績も普通にあるはずなのに自己を肯定できない人』って、視点や目線によっては全然理解できないし、共感できないよなあ。
もしもだけど、徳甲一族が当主家系を敷いていない指名制で『当主になりたいけど更紗より実力が足りない人』とかがいたら超敵視されてたかもね。

 

…いやどうなんだろう 更紗の自己評価って周囲にいる人たちがどいつもこいつもスペック高くて余裕あるのばっかりだったせいで必要以上に拗らせた感あるしな…。

もし、明確に『更紗より下』の人がいたらどんな風になっていただろう。
無意識に見下す(マウント取る)ことで自尊心を何とか保とうとする更紗が見れたかもしれない…?

この場合また違った矮小さで、コンプレックス拗らせフィクションキャラが割と好きな方である私は「そっちもいいね!」ってなってそう。

 

クロスする血統

更紗&揚羽の関係ってばな奈&赤に結構似てると思う。『理解できない者に対する恐怖』っていう点が。

ばな奈は赤の『何を考えてるか分からないのにズケズケ踏み入ってくるところ+単純に物理的なサイズとパワー』が怖かった。

更紗は揚羽を見ていると『ポジションを奪われるんじゃないか』とか、『彼の持つ得体の知れない凄みが圧倒的に自分を上回っている』ような気がして怖かった。

でも二人とも『自分に好意的だが得体の知れない相手に対して、自己防衛的に拒絶反応を示してた』っていうのは共通だと思う。こんなところが姉妹で似てるんだなあ…

一方で『その得体の知れない強さや凄みでビビらせてしまう』ところや、『最終的にかなり強引な手段で相手の心をこじ開けた』ところが共通してる赤と揚羽が遺伝子的には兄弟なのも面白いなあって思います。

ここの赤と黄色の親子2組は血がクロスしてるんだけど、なんか関係性もクロスした感じがします。

描いてる時は別に関係性似せようとか対応させようとか意識してた訳ではなかったんだけど。ばな奈と更紗は人格形成に関わる境遇が全然違うし。

 

どうでも良いけど『血がクロスする』ってかっこいいな

 

“結婚”が更紗にもたらしたもの

揚羽がこれを言い出した流れについては揚羽の記事で書くべきことだと思うのでその辺りは割愛。

 

更紗目線、これ言われた瞬間ってマジで意味が分かんなくて、疑問と困惑と恐れがぐるぐる回ってグラグラしてるうちに押し切られた形だったと思う。強引なんだよな揚羽 赤に似てるよ

なので、“結婚”をやった直後の更紗ってまだ揚羽のことを『好き』だとか『愛している』だとか思えてはいないと思います。
ただ、揚羽が壁を叩き壊して『更紗が抜け殻状態から回復した』こと。その上で揚羽に対する変な意地やプライドが無くなったことが何より大きかった。

素直になれる、素直に相手のいいところを認められる』状態って本当に凄くて強いことだと思っていて、『更紗をその状態に持っていけたこと』が揚羽の最強に凄いところだと思います。

 

揚羽の項で色々書くので彼側の意図は一旦割愛するけど、『結婚』なんて言ってしまえば言葉遊びというか、現状認識を変えるための詭弁みたいなものなんだよね。更紗に生きる意味を与えて、揚羽に対する障壁を取り払えるなら言葉自体は何でも良かったと思う。

だからこれって、赤がばな奈に『ちゃんと説明しなきゃわかんない』って迫ったのとあんまり変わらなくて、どちらも壁を取っ払うために選んだ言葉なんだよね。

ただ、言ってる側はメンタリストでもカウンセラーでもない天然男たち。なので赤はパワー系だし、揚羽はもっともっとパワー系だった。二人とも一歩間違えば爆弾を爆発させかねないタイプなので、このコミュニケーションが最適解かと言うと『そうでもないかな…』って感じではあるんだけども。

それでも上手くいったのは、彼らが自分なりに相手のことを考えたからだと思うけどね。手段はパワー系だったけど。

…とにかく、そんな揚羽のパワー系の『告白のような何か』で生きる意味と場所を得て素直になった更紗。

そうやって『素直になれた』状態で寿命までの1か月間彼と一緒に緩やかな日常を過ごしたからこそ、彼のことを『好き』になったし、『愛する人だ』と思えるようになったんだと思います。

 

ばな奈もそうだったよね。赤とアウトスレスレのラインで和解(和解と言っていいのか微妙なレベルの)した直後はまだ彼のことが怖かったと思うし、不安だったろうし、彼のことを好意的には思えてなかったと思う。

でも、壁がなくなって一緒に話したり戦ったりしているうちに彼のことが分かってきて、大切に思えたり守りたいと感じたりするようになったわけだから。

つくづくこの兄弟と姉妹は連動しているかのような生き方と関係性だったなあ。
パッと見同じ関係には見えないし、解決時期も方法も全然違うけども。本質的な部分はソックリだと思う。

 

なんか更紗の項だけど赤とばな奈の話もけっこう混ざっちゃったな。ここの関係本当に面白くて好きなんだよね…親子でクロスして立場が逆になってるところも

ここ辺りで赤い人と黄色い人の関係性が強固になる一方、青緑の人たちがまた別のところに強い繋がりを作っていた…っていうのもなんか、群像劇みたいで興奮します。

 


次回(燕九朗)▶︎4/4更新予定

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