『In Stars and Time』感想(途中までネタバレなし)

1日30分ペースで進めていたゲーム『In Stars and Time』を2ヶ月ほどかけてクリアしました。大晦日に。クライマックスはグワーっと進めたので3時間くらい一気にやっちゃった。

とてもいいゲームに出会えたので感想を書きます。とてもいいゲームだったので、前半はネタバレなしでゲーム概要の紹介なんかも書いてみます。興味が出たら是非やってみてね。

 

ゲームの概要

『in Stars and Time』は、フランスのアニメーター・insertdisc5氏が開発したアドベンチャーRPGです。RPGツクール製。
かなりいい感じの日本語訳もされており、PC・Switch・PS4/5などで販売中。

以下、ゲーム序盤のあらすじ、その次の項でネタバレにならない程度のゲーム体験の話をします。一切情報を知りたくない人はここまでで切り上げてくださいね。

 

 

序盤のあらすじ

物語は『ラスダン攻略前日』からスタート。主人公・シフランは救国の英雄パーティの一員です。

ラスダン直前だけあって最初からそれなりのレベルのパーティメンバーたち。ボニーもいるぞ。

翌日、一行はラスボスの待ち受ける『ウツロイの館』に突入します。

主人公・シフランはパーティの中で最も素早く、戦闘においては一番槍のような役割を担っています。罠の解除などもシフランの役目です。
ラスダンでも、パーティの先頭を歩き、周囲を警戒しながら、

めっちゃ入口にある落石の罠で死にました。

そして、開始地点にループ。シフランは何故か死ぬとループするようになっていたのです。

しかし、ある意味でこれは幸いでもありました。シフランは、館の攻略に失敗して進行不可能になっても、不意の罠で死んでも、ラスボスに殺されたって、やり直すことができるのですから。

そうして試行錯誤を繰り返し、ついに一行はラスボス打倒に成功しました。

しかし……

シフランはまた、ループの開始地点に戻ってしまいます。何故?どうして?ラスボスを倒せば終わりじゃないの??

ここから、このループを抜け出すための長い長い長い長い試行錯誤がはじまる。というのがこのゲームのおおまかなあらすじです。かなりあらすじ書いてない!?と思われるかもしれませんが、このゲームはここからが本番なので、ここまで書きました。一応一切ネタバレダメな人は見ちゃダメって言ったしいいかな。

実際にプレイするとここまでもけっこうボリュームあるんですが、ここからもかな~~~り長かったです。

 

 

ゲーム体験について

では、根幹のネタバレをしない程度にこのゲームでできる“体験”の話をしようと思います。『あらすじはいいけど“体験”のネタバレはちょっと…』という場合は読まないでください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、このゲームは包み隠さず言ってしまうとかなりの作業ゲーであり、地味なおつかいゲーです。ラスダンと街をひたすらループで往復し、情報を集め、敵を倒し、既に聞いた仲間のセリフを何度も何度も何度も何度も見て、同じようなことを繰り返して、繰り返して、繰り返す。一応ループ地点を選べたりはできるのだけど、それでも「いつまでこんな地味な繰り返しをしないといけないんだろう……」と思うくらい、代わり映えのしない世界を往復することになります。新マップなんかも当然ないですからね。

私はゲームにおける『作業』や『おつかい』的な要素自体は好きでも嫌いでもありません。ですが、『このゲームの作業は好きだな』『このゲームの作業はマジでダルいな…』と、ゲームによって似たような作業でも感じ方が変わることがあります。そして、『In Stars and Time』の作業とおつかいじみた往復は………好きです。いや、これは少し語弊があるかもしれない。面倒でダルいところが、好きなんですよね。

ループを抜けるための試行錯誤がはじまってしばらくすると、プレイヤーとしては相当ダルくなってきます。地味な探索、既に見たセリフ、地味な探索、既に見たセリフ………またあの階層に戻るの?またあのイベントを見るの?またラスボスを倒しに行くの?

プレイヤーがそんな感覚に陥るくらいの折に、気付けば主人公のシフランの言動にも変化が現れはじめるのです。徐々に、徐々にモノローグのささくれが目立つようになってきて、無理してるんじゃないか?という態度を取るようになってきて、立ち絵のグラフィックもちょっとだけ影が増えて………などなど。
これは何か大きな事件がきっかけで変化したというわけではなく、本当にいつの間にかそうなっているのです。おそらくループ数などで変化したのだと思いますが。

仲間たちの重要イベントを見た時、プレイヤーは思いました。「これは大事なイベントだ。ループしたとしてもセリフスキップするのは失礼だ」と。だけど、何度も何度も何度も何度もやっているうちに、「もういいか…スキップしよう…」となってしまった。主人公も、最初は仲間たちとわきあいあいとしているのに、だんだん、距離ができてきて、壁を感じるようになっていった。

プレイヤーと主人公の『地味な疲弊とそれによる態度』がシンクロしている。これがこのゲームにおける作業やおつかいの『嫌でダルいけど、体験としてかなり好きなところ』です。

これによってプレイヤー私はどんどん主人公・シフランに没入していきました。もちろん、俯瞰視点でゲームをプレイしているだけの私と、世界に身を投じているシフランの感じている負荷の程度は全然違うでしょう。でも、でも、「わかる……しんどいな……」「た、たすけて~~」……となってしまうのです。主人公越しに世界に触れているプレイヤーも。

 

このゲームをプレイして、私は『好きな作業』と『嫌いな作業』の何が違うのかが言語化できました。私は『体験を伴う作業』が好きなんだと思います。このゲームはそこが本当によくできていた。本当にしんどかった。マジでたすけてほしかった。このループは終わらないんじゃないかと思った。そしたら主人公も同じでどんどん疲弊して病んでいっていた。かなりしんどかった。しんどさがゲーム体験になっていて、すごくよかった。

だからこそ、主人公の救済と解放を心から願えた。主人公と同じ目線に立ちたくて、クリア時間目安は調べなかったし、途中で攻略に詰まってラスダンをひたすら彷徨い歩いたときもヒントを調べようとは思わなかった。(ちなみに普段ならちょっとした謎解きに詰まったらすぐ調べちゃう方)そもそも、ややマイナーなインディーゲーのヒントがネットに転がってるかは微妙なところではあるが

プレイ時間やヒントを調べたら『終わり』がどこらへんにあるのかが分かってしまう。それはこの『ループがいつ終わるのか分からなくてしんどい』体験を損なうことだと思った。

いやー本当にしんどくてよかったです。最初に書いた通り、1日30分とかのペースでやってたから余計に牛歩感があって。「今日は全然進んだ感じしないな…」「今日はけっこう動いたかも!」をひたすら繰り返していました。

いやーーー、プレイしてナンボのゲームは、いいゲーム………あたり前のことを言ってしまった。気になる人は是非プレイしてみよう。『In Stars and Time』、PC・Switch・PS4/5などで配信中だ。

Steam:In Stars And Time
時間のループに囚われていることを知っているのは自分だけ。たった一人でその重荷を背負い戦うターン制RPG。あなたと仲間のために最善の未来を目指して歩む。希望を見出せ、すべてが奪い去られても。星に祈りを、時からの解放を。
In Stars And Time
任天堂の公式オンラインストア。「In Stars And Time」ダウンロード版の販売ページ。マイニンテンドーストアではNintendo Switch(ニンテンドースイッチ)やゲームソフト、ストア限定、オリジナルの商品を販売しています。

 


 

というわけでここから下はクリア済みネタバレ感想です。

 

 

 

 

 

 

 

(ここからネタバレ)クリア感想

1日30分ペースで進めたと書いたが、クライマックスはACT5に入ったあと仲間たちのお手伝いでメチャクチャやってしまうくだりからもう一気にやってしまった。すまん、あの展開で「よしここまで。今日はもう寝るか」するのは、無理。

しかしあのループ抜けルートは本当に本当によかった。予想外だけど納得感が強いという、一番いい終わり方だった。

あのクライマックスで私が一番好きなのは、『シフランがやらかして仲間たちによくない姿を見せた世界線』からゴールしたところですね。それまではループできるゆえに仲間たちの望むようにし、愛され、滞りない関係を築いて立ち回ってきた。そんなシフランが唯一メチャメチャにやらかして言ってはいけないことを言い傷つけビンタされ怒鳴られ冷たい目で見られた、そういう姿を見せた世界が……そういう世界が未来に繋がったのは………あまりにもよすぎですね。

“正解”の択を取り続けることが必ずしも未来に繋がるとは限らず、“大失敗”したからこそ生まれるものもある……といいますか。そういうものを感じて、本当に良い……良いな………と思いました。表も裏も人間の姿だ。それを受け入れ、案じ、許すだけの絆があの一行にはあった。すごいことだな……。愛すぎる…………。

いやでもプレイしてるときはしんどすぎて内蔵のあたりが若干キリつきましたけど……
一人での館の探索も出入り口がめちゃくちゃになってるのとかシフランの精神状態を表してるのかと思って助けてーーー!!!ってなったし(あれは実際に館がおかしくなってただけだけど)

顔の潰れた仲間たちの幻覚が見えるところが一番キツかったな………や、やめてくれ~……ってなった。
プレイヤー視点なら『仲間たちはシフランを嫌っている』というのがシフランの思い込みに過ぎないこと、仲間たちはそんなふうに思っていないということはわかるけど、わかっててもなおキツかった。

で、ここらへんシフラン視点に没入しすぎてマジで仲間たちがかけつけてくれると思ってなくてめちゃくちゃ「!?!?!?!?!?」ってなってしまった。いや、あれは今冷静に考えれば王道な展開だし、クライマックスならそうなるだろう、と思えるのだけど、プレイ中はシフランと一緒になって視野狭窄に陥っていたのでまさか来てくれるとは思わなかった。マジで夢か幻覚かと思った。色々ゲームやアニメやに触れてきて“パターン”のようなものが刷り込まれつつある自分がこんなド王道展開でびっくりするとは。すごいゲームだ……

攻略途中の繰り返しのしんどさも、クライマックス手前のド暗黒パートも、本当に体験として没入しきっていたので最後の展開のカタルシスが本当に本当にエグくて、マジで近年で一番のカタルシス、開放感だったかもしれない。

いやね、プレイしながら『このゲームは鬱々としたバッドエンドはやらないだろう、なんだかんだで救われるだろう』とは思っていたんです。だって、人間の描き方の手つきが本当に優しかったから。様々な価値観や在り方への肯定的な姿を見ていたから。こんな風に人間を描く作品がバッドエンド投げっぱなしなんてするはずがない。と、そう思っていてもあまりにも色々しんどくて「本当に助かるのかな、おれたち………」という気持ちにもさせられたし、ACT5前半の暗黒っぷりに本当に心がやられそうになったし、イヤ~~~~ すごすぎ。没入させる天才

 

ループしてしまう原因については流石に察しはついていたけど(というかそれが分かる程度には情報出てた)色んな情報や感情が集約された結果の哀し身シフランが実質ラスボス、というのはもう、演出として、いや、もう………ねえ~~!“色”が出てきたのもあって感動でゾワゾワっとなった。

間違い、傷、裏の顔、心の底で思っていること、そのすべてを分かち合えるのが真の絆……とは思わないけれど、シフランと仲間たちについては“それ”がたった一つの道で、もう私も最後ミラベルたちと一緒に「言えーーーッ!!!!ばかやろーーー!!!」ってなってたよ。お前は!!!言え!!!!ちゃんと言わなきゃいけないタイプ!!!!!!

シフランがドツボにハマったものって、なんというか、『言えば済むじゃん』の話でしかなくて、シフランが素直にそれを口に出せるタイプならこんなことにはなってないんだけど、でもさ~~~!!人間はさ~~~!!そういう『当人にはどうしてもできないこと(他人にはどうしてできないのか分からなかったりする)』があるんだよ~~~~!!!って感じで、シフ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

はあ 人間だな………本当にありがとう仲間たち、家族たち、友達………結局これどの呼称を使えば良いのか難しいよ……家族家族言ってたのもなんか無理してる感あったし……私は最初に絵を見た時の「僕と友達だ!」が好きなので友達がいいな………。あれがいつのまにか「僕と仲間だ」になってたのに気付いた時、エッ……?ってなったよね………

 

シフランと友達のみんなはこの冒険が終わっても一緒にいられることになったわけだけど、それだけじゃなく『終わったとしても終わらない』という部分まで言及してくれたのが、あまりにも、よかった


このセリフ印刷して部屋に貼りたい

ただただ『これからも一緒だよ。永遠にね❤』となってしまうとそれはそれでメリーバッドエンドじみてしまうというか。上っ面感があるというか、でもいつか終わるじゃん。ってなってしまったと思うんだけど、『いつかは終わるよ、でも終わりじゃないよ』まで言ってくれたらもう……プレイヤーは無事成仏できます。シフランの背後霊から。

終わりだけど、別れがあるけど、いつまでも一緒にはいられないけど、お互いの人生の中にお互いの存在がずっとありつづける。そういうものが、好きな、オタクをさせていただいております………

この手を繋いで落ちるところでボロボロ泣いてしまったしもうなんか色々、色々すごい………

メニュー画面変わってるのももうさあ…………泣

絵が変わってるのは何故……?になったけど、限界だったシフの目にはそう見えてたってことなのかなー。写真はそのままだったもんね。

 

 

 

イザボー。よかった……

イザボーからシフランへの矢印についても作中でどう扱われるか注目してたんだけど、考えられる中で一番良い畳み方をしていてもう………万感です。

最初ベタなラブコメみたいに告白が邪魔されて言えなかった時、でもこの作品がこういう感情を雑に扱うわけがないと思ったんだよね。それでジャマが入りそうなポイントを潰して、やっと聞けるかと思ったら結局イザボーがビビって言えなくて、こ、こいつ……となって、

結局イザボーの口から聞けないままシフランが察してしまって、それで『告白の記憶』なんてものを取得してしまって、お前!!何が告白の記憶じゃ!!!聞いてないやろ!!!!とキレて……

なんというか、こういう告白で気持ちを知ることってかなり不可逆性が強いと言うか、知ってしまったらもう知る前の自分には戻れない、というところに重みを感じるんだけど(これは告白以外のこともそうだったかも。絆を結んだ家族がループでリセット、とかも同じこと繰り返して気持ちは不可逆なのに同じ関係にはなれないだろうって思ったし。)

それを、イザボーから聞くまでもなく分かってしまって、シフランの心は不可逆な状態になってしまって、どうすんだよ、どうすんだよイザボー……というのがプレイ中の私の感情でした。ただ、エピローグほんま、よかった……

まず、シフランの方から手を伸ばしたからこそイザボーも一歩踏み出せた、っていうのがイイよね……。それはループ中のシフには絶対にできなかったことだから。

そして、イザボーの口から聞く告白はそれはもうすごかった。次から次へとラブな言葉が洪水のように溢れて、これはさ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!本人から聞かずに察した状態で“そう”と決めつけていちゃあわからない熱量ですよねえ~~~~~~~~~~~!!!!例えるならゲームを実際にプレイするのとあらすじだけ聞かされるのくらい違う。イザボー本人から直接言われないと分からない情報量とラブだったよ・・・・・・・・・

何より、これが繰り返しのループの中じゃなく、最後の最後、一回こっきりのところに持ってこられたのが………ほんと…………よかったッス………。これは一回だけにしたいよ。シフから手を伸ばさないと出ない言葉なので、理屈としてループ中には聞けないって構造になってるのも美しい。

イザボーという人の感情に対して本当に誠実な作りをしている作品だな~と思った。対するシフランがまだ気持ちハッキリしてないのも、ちゃんとシフランの自我というか、今のシフランはまだそこだよねって感じで人格を尊重されてたし。あ~~もうあらゆる人格が尊重されてる!最高!!

 

クリアしたらタイトル画面のシフがいなくなるのも「ウワアア~~~~~~~~~!!!!!!!!」ってなったしよすぎゲームだよ………シフ、行ったんだな………未来へ……………

 

あ~~~いいゲームだった。ストーリーも良いし何よりゲーム体験との絡まり方がよかった。本当に没入した。最高。ありがとうございます。