1年越しの徳甲一族キャラ語り 第19回になります。
これ何?という方ははじめにを御覧ください。
目次
赤-沿革
血潮と芭蕉天嵐子の子
家系伝統の赤い髪に赤い瞳がその名の由来である
父親が既にいないことを気にしたことはなかったし、鬼と戦うことに恐れを感じたことも、己とは出生が違う『京の人々』を異種の存在として見たこともない。
その男のどこまでも陽気で、弾けんばかりに元気で、それ故に気の利かない性質は、生まれた時代が違えば温かく迎えられたかもしれなかった。
赤が来訪するほんの直前のことだったらしい。赤、そしてばな奈の親が討伐で戦死し、凪左助の親は意識不明の重体になったそうだ。そう聞いた
赤にとって『その人たち』は赤の他人よりももっと遠い存在だ。『そのような人がいたらしい』という、伝聞の中だけの人物でしかなく、赤はこれっぽっちも悲しいとは思わなかった。
赤は他人の気持ちを推し量ることができない。だって“知らない”のだから。故に、彼は凪左助やばな奈の痛みも理解することができなかった。
凪左助は色々なことを教えてくれた。赤に対しても穏やかに接していたし、赤の知らないことをたくさん知っていた。
『長の仕事』ってよく分からないけど、そういうのは凪左助に任せておいて自分は思いっきりぶん殴って敵をやっつければそれで良いんだ。鬼を倒すのは赤の得意技だ。
ばな奈のことは本当によく分からなかった。何を言っても怒るし、近付くと逃げるように離れていくし、毎日のように大きな槌を振りこんでいるくせに、鬼や戦は怖いらしい。
赤が『お祭りのお土産』を渡したら急に泣き出し、しまいには焦点の合わない目で『お父さん』と呼ばれたこともあった。訳がわからない
そして時たま、赤に謎かけのようなことを言ってくるのだ。凪左助が過労で倒れた時、首を傾げる赤に対してばな奈は『お前は何もない』と言い放った。
身体が大きくて、戦う力が強くて、家があって、京の町に友達がいて…『自分は色んなものを持っている』と思っていた赤は、彼女が何を言いたいのか全く意味が理解できなかった。
ばな奈の言うこと、やることなすこと全てがよく分からない。
よく分からないから、赤はばな奈により強い興味を持ったし、彼女と仲良くなりたいと思った。
ばな奈のことがよく分からない。何故よく分からないのだろう?答えは単純だ。彼女は言葉が足りない。きちんと説明してくれないせいだ。
例えば凪左助は赤に何か頼む時、討伐計画を立てる時、赤にも分かるように説明してくれる。愚連隊の甲や乙はお金が欲しい時、『お金が欲しい』と言ってくれる。
ばな奈はそれをしない。
赤は数ヶ月の時を経てようやくこのことに気付いた。ばな奈は何も教えてくれない。ちゃんと考えを言ってくれないと、よく分からないままじゃないか!
そんなある時、迷宮探索で『大地の加護の力を持つ錦帯』を手に入れた。『土の術技が苦手なばな奈にピッタリだ』と考えた赤はこれを持って討伐に出るよう促したが、彼女はこれを拒否してしまう。
理由はいつも通り、さっぱり分からなかった。
疑問が積もっていた赤はばな奈に聞いてみた。何故嫌なのか、何故拒否するのか。言葉で説明して欲しかったからだ。いつもは何処かに逃げ去ってしまうので、話してくれるまで彼女の肩を掴んでおこう!
赤本人に害意はなく、話し合いを求めて起こしたその行動はばな奈にとって『脅し』に等しかったのだが…結果的に赤は初めてばな奈の考えを知ることができた。
加護の力を持つ装飾品は一種しか力を発揮することはできない。大地の錦帯を身につけるということは、ばな奈が肌身離さず持っている『陸の首飾り』を手放せと言うことだ。
つまり、『首飾りは父の形見なので手放したくない』……ということだった。
蓋を開けてみればとても簡単で、単純なことだ。だけど赤は初めてばな奈の考えに触れた、気持ちを知ることができた。彼女と『話をする』ことができた。
それは彼の人生の中で一番の、革命的な大発見だっのだ。
赤はとても、とても嬉しくなった。
『言葉にして考えを説明する』ことを知った赤とばな奈は少しずつ距離を縮めていった。ばな奈は赤を避けなくなったし、赤も相手の考えを聞くための『待て』ができるようになったからだ。
ばな奈に頼ってもらえることが増えた。お祭りに誘ったら、一緒に来てくれるようになった。
赤はその度に嬉しい気持ちでいっぱいになった。もっとばな奈に喜んで欲しいし、ばな奈が本当に欲しいものを知りたい、それを与えたいと思った。
だから彼は『交神の儀』で下諏訪竜実――…ばな奈の母に会いに行くことを決めた!
ばな奈が『好き』だと言った母神に、ばな奈が『その思いを知りたい』と言った相手に、赤も会ってみたかった。そして、そんな神から子を授かれば、その子は自分ともばな奈とも楽しくやっていけそうだ。きっと皆笑顔になれる。
とても良い案だと思ったし、ばな奈も戸惑いつつ認めてくれた。
しかし何故だろう、凪左助だけがとても怒っていた。今まで向けられたことのない冷たい目で赤を見て、いつまで子供でいるつもりなんだとか、それは君が背負うものだとか、そんなことを言っていた。
赤には彼が怒る理由が分からなかった。ばな奈と仲良くなって、良い感じになってきたはずなのに、今度は凪左助のことがよく分からなくなってきたのだ。
この家に来たばかりの頃は、凪左助の方が分かりやすかったと思う。凪左助は丁寧に説明してくれるから
最近の凪左助はちゃんと説明してくれない。ずっと何かを考えては険しい顔色をしているし、交神から帰って、子供がやってきても、それはより一層強まるばかりだった。
そうすると、今度はばな奈が教えてくれた。
凪左助は今まで一人で全部を背負い込もうとして、無理をしてきたということ。自分は気を遣われる存在ではなく、彼を助けられる仲間でありたいということ。
ばな奈の言っている内容はとても複雑に思えたが、彼女の想いを受け取ることはできた。
ばな奈だけじゃない、赤は凪左助とも一緒にいたいのだと思った。そしてそれはばな奈と同じ気持ちだ。
その為に凪左助ができないことをして、一人では抱えきれないようなものを一緒に持ってあげる…赤にとってすごく納得できる答えだった。『言葉にする』って、やっぱりすごい
ばな奈と話し合い、凪左助への提案を決めた。
一つは、一族が避けていた因縁の地・紅蓮の祠を攻め、探索を進めること。
もう一つは、自分たちで『髪』を倒し、一族の歩みを進めること。
今まで凪左助が一人で決めていたことを二人も考えた。凪左助が不得手としている分野は、今まで以上に積極的に買って出るようにした。
その結果、赤たちは3人それぞれの力を合わせて親王鎮魂墓の『髪』を倒し、紅蓮の祠ではかの化け猫をぶっ飛ばし、その奥の『髪』も倒すという最高の結果を出すことができた!
そうしているうちに、初めは戸惑い難色を示していた凪左助も肩の力が抜けて、なんだか以前よりも笑みを見せてくれるようになった気がする。
一緒に考え、一緒に戦い、一緒に頑張る。赤はなんだかとても、とても嬉しくなった。そして嬉しくなればなるほど彼は強くなった。赤の背中を見て歩むものたちは、不思議と何にも負ける気がしない気持ちになる。赤はそれほどに『強く』なっていた。
そして、その勢いのままに三本目の髪を打倒した。だけど、その戦いを終えた直後、凪左助が死んだ。
『寿命が迫っているらしい』ということは知っていた。現に凪左助は日に日に体力が落ちていたし、頻繁に薬を服用するようになっていたから
だけど、赤は『死』というものが何なのか、よく分からなかった。六ツ髪との戦いを終えて動かなくなった、その身体を抱えて帰路についている時も、とても不思議な感覚だった。
『これ』は一体なんなのだろう?赤はそのことを噛み砕けないまま、凪左助を葬った。手にはあの重くて冷たい感触だけが残っていた。
またしても、ばな奈が教えてくれた。
生きているというのは、温度を持っているということだ。死ぬというのは、赤が触れてきた、感じてきたその温もりが消えることなのだと。
その時赤は『死』を知った。そして同時に、生まれて初めて『生』を知ったのである。
その時、既にばな奈は体調を少し崩していた。凪左助と同じだった。寿命が近いということだ。
赤は、自分が討伐に出て帰ってきた時にばな奈が死んでいたらとても嫌だなと思った。そう口にすると、彼女はまだ死なないと約束してくれた。
色んな話をした。赤とばな奈は、こうやって色んな話をしてきたんだ。
ばな奈と穏やかにお互いの想いを伝え合えることを、改めて嬉しいと思った。
とってもすごいことだ。想いは、素直に口に出すのが良い。
それが赤が生きてきて得た最大の発見だ。子供たちにも是非聞いて欲しいくらいの、大発見だった。
赤が子供たちを鍛えるための討伐から帰ると、そこにはちゃんと『温度』が待っていてくれた。
うれしいな、とかんじた。それがかれの、さいごのこころだった。
赤について
赤世代以降本当に『補完するマンガの量が増えた』=『情報量が増え、一つ一つの出来事が細かくなっていった』影響で視点あらすじが全然まとまらない…何を削って良いか分からない…。
赤の成り立ちの話
命名妄想の記事でも書いたけど、『徳甲赤』という人物はこの歴史を歩んでいない場合全く違う存在だったし、そもそも『赤』という名前ですらなかったんですよね。
親世代が存命で、同世代とも決定的な亀裂が無い生まれ方をした『彼』はきっと血潮や詠芽から別の名を貰ったと思う。そして親世代に『子』として育てられ、全然違う経験をして全然違う人物になったんだろうなと。
『赤は親がいない人』っていう風に考えていると『一応嵐子様という親がいるのでは?』というのも頭に浮かぶのだけど……。赤の陽気なところは嵐子様の存在あってのものだと思う。だから赤はどの世界でもきっと陽気で元気なところは変わらないんだろうな。
だけど嵐子様が『親』だったかというとあまりピンとはこないんですよね。神様も色々いるし、『親』という存在になれる者もいればそうじゃない者もいる印象があるので
嵐子様は…少なくとも徳甲世界の嵐子様は後者かな。面白く珍しい存在として我が子に接してたんじゃないかと思います。
赤はそれが嫌だと思うタイプではなかったけど、彼のどこか大事な部分が欠如した性質はその影響もあるのかも?これは今打ってて浮かんだことだけど
嵐子、そして会えなかった血潮、ほとんど死んでいるのと変わらない詠芽…と、赤を『子』として扱って地盤を形成するような『大人』は誰もいませんでした。
『死』を知らない子供
そして、これは俺屍に生を受けた者特有の現象なのだけど、『俺屍の子』って基本的には若く・幼くして『死』を経験する人が圧倒的多数だと思います。
相手は親であったり、前世代の人だったりね。死に別れ方や温度感は色々あれど、皆『誰かの死』に直面しながら育って、生きていく…俺屍の子供ってほとんどがそうだよね。
それは赤と同じく人親に会えていない竜ノ助も同様で、彼は育ての親的存在である黄々・先代当主に当たる真赤丸の『死』を見て育ちました。
赤ってそれが一切ないんですよね。
出会う前に死んだ血潮や雷丸は勿論のこと、唯一生き残って指輪を所有していた詠芽も紅蓮の祠でボロボロに焼け焦げ、何故生きているか分からないような状態で床に伏していたから。
おそらく赤にとって詠芽は『死んでいるのと変わらない存在』だったはずです。『生きている詠芽を知らない』から『死んだ』という認識もない、そういう感覚だったんじゃないかと。
『俺屍一族なのに“死”を知らない』というのは赤の際立って特異なところで、『生まれてから1歳8ヶ月まで誰の死にも立ち会っていない』って本当に本当に特殊なケースだったと思います。当然馬鈴薯にも羽出井にもいないし、特殊な一人旅一族だって0ヶ月で親が死ぬんだから。
(ゲーム的には詠芽の死に立ち会ってることにはなってるけど、ここは創作的補完解釈に絞って書いてます)
俺屍一族なら皆が当たり前に知っている『死』と、それに伴う何らかの感情などを一切持たずに生きていた。それが徳甲赤という人でした。
あるところで『(現実の)子供は死という現象を実感できない』という話を聞いたことがあります。例えば「あの人は死んだんだよ」とか言われても、直接見たことがない『死』はどういうことなのか分からないんだとか。
これは現実の心理的な話だけど、赤って正にそれで。もしかしたら精神面は『現実の子供』に近いものを持っていたのかもしれない…かもしれないですね。
俺屍一族だけど死という経験を経ていない子供、しかし肉体はモリモリ成長して大人以上の体躯になっていく。赤のアンバランスさここに極まれりといった状態です。
だから『親とのショッキングな死に別れ』という非常に繊細な問題を抱えた凪左助やばな奈にずけずけ踏み入っていた。肉体に精神が追いついていないから自らの存在がとても暴力的である(直接暴力を振るわなくても脅しのような存在感を放っている)という自覚も持てなかった。
だから、『凪左助の寿命が近付いている』と告げられた時も、おそらく実感を持てなかったはずです。
だから彼が本当に死んだその瞬間も、そのぐったりした躯を抱えている時も、目の前で起きている現象が“何”なのかが上手く頭の中で繋がらなくてぼんやりしていたんだと思います。
赤の『強さの正体』と『弱さの可能性』の話
徳甲一族最強無敵の存在・赤の『強さ』とは、『恐れを知らないが故の強さ』に他なりません。
彼は怯えを感じて足がすくむこともないし、突き出す拳に迷いが生まれることもない。だから強い。だから一族の仇敵であった赤猫お夏をもいとも容易く粉砕することができた。赤にとって彼女はただの鬼でしかないから。
しかし『恐れを知らない故の強さ』とは、裏を返せは『恐れを知ることで失われるかもしれない強さ』である可能性が高いと思います。
凪左助が去ったことで『死』がどういうものかを知り、仮にばな奈が赤より先に寿命を迎えていたら……もしかしたら『赤の弱さ』を目の当たりにすることになっていたかもしれない。そういうことをつい考えてしまいます。
(勿論死の順番が違ったとしても遺言は決まっているのでゲームメタ的には彼の最期は変わらないけど、このあと語りは創作サイドのみを参照するので置いておいて)
実際はばな奈が非常に長生きしてくれて、赤を置いて逝くことはありませんでしたが。
彼女は初めて死に直面した赤を包むような言葉をかけ、彼と、そして彼の強さを守ってれたと思います。だからこそ、ばな奈は『赤を守れる唯一の存在』なんだよな。
次回(更紗)▶︎3/31更新予定