1年越しの徳甲一族キャラ語り 第15回になります。
これ何?という方ははじめにを御覧ください。
目次
雷丸-沿革
きららと鎮守ノ福郎太の息子
雷丸はアホだった。
勉強が苦手で、不真面目で、一族の背負うものや未来についても関心が薄く、遊ぶこととに全力で、綺麗で可愛い女の子が好きで、全くモテない。だけど友達は多い そんなアホだった。
母であるきららが死んだ。
彼女は己の人生を悔いているようであり、他者を羨んでいるようであった。流石の雷丸もその姿をよく覚えている。
だが彼は変わらなかった。変わる必要は特に無かった。
母がどうであろうと彼はそうであったかもしれないし、母がそうであったからこそ、より一層己の人生を謳歌するようにしたのかもしれない。どちらにせよ、結果として彼は変わらなかった。
先代の役目を引き継いだ迷宮探索や親玉討伐が進んでも、いつも同じ調子で笑い、怒り、騒いでいた。雷丸は真面目で堅物な長を振り回して、時には呆れられ、それでも止まらない。だが、変わらない男であった。
しかし、彼は変わらずとも彼を取り巻く状況は刻一刻と変化していく。
…長である血潮の様子がヘンだ。
『ははぁ〜ん、なるほど。こいつ、詠芽さんに惚れたな?』
『まあ、詠芽さん綺麗だもんな。わかる、わかるぞ少年』
『何やら詠芽さんの様子もおかしい。まさか!そんな羨ましいことがあるだろうか!?これが長の特権ってやつなのか!?』
雷丸の目の前にいたのはただの男と女だった。男と女が互いを好き合う、ただそれだけの超羨ましい状態だった。超羨ましい状態だった。
…だけど、当人たちにとってそれはそんなに単純な話では無いらしい。
詠芽が倒れ、それに動揺した血潮が交神の儀に失敗して帰ってきた。
『それはわかる。俺だって詠芽さんが心配だし』
それより先がこれっぽっちも理解できないんだ。
詠芽さんは自分の責任だと言う。自分の気持ちに気付いていながら、『血潮に伝えてはいけない』などと言う。
交神に失敗したのは血潮であって、別に詠芽は悪くないのに。
血潮も同じだ。『その気持ち』を自覚した血潮は、自らに失望した。好きになどなってはいけなかったと、後悔した。
何もかも理解できなかった。
同時に、頭の中に声が響く。在りし日の母の言葉だ。
記憶力がさっぱりな、嫌なことは一晩寝れば忘れられる雷丸が何故かずっと覚えていた言葉だ。
『誰かと好き合う関係に憧れていた』
『でも、2人いてお互いがお互いのことを好きになるなんて奇跡みたいなものだ』
そう、こいつらは『奇跡』を掴み取りながら、自分が悪い、自分が悪いとウジウジ言い合っている。なんだそりゃ
そんなことが頭を巡った瞬間、雷丸はなんだかアホくさくなってしまった。なんか、知らねえよ、好きにしろよと思った。
—
そして、血潮は変わってしまった。雷丸が何を言っても反応を返さなくなった。単純な彼は『きっと嫌われたのだろう』と思ったが、そんなことを気にしてはいられない。
そう、待望の娘が生まれたからだ!!!!
待望の、待望の娘が生まれたのだ!!!!!!!
雷丸の娘は可愛らしかった。愛嬌のある顔つきは、母である下諏訪竜実の遺伝だろうか。しかし性格はとても素直で、父のことが大好きだと言う。ここは下諏訪竜実に似なくて良かった
可愛い、可愛すぎる。ヤバい
正直、それ以外がどうでも良くなるほど、彼は娘を溺愛した。
—
そんな最中、久しぶりに血潮から話しかけられた。今月の討伐についてだった。
詠芽の戦線離脱が近い今、『髪』をもう一体狩りに行くという。
その口調は、これまでのような『討伐についての相談』ではなく『確定した事項の通知』であり、『命令』に他ならない。
口を挟んだり断ったりする間すら与えられないまま、雷丸の最後の出陣が決まった。
雷丸は深く考えていなかった。(そもそも、何かについて深く考えたことなどこれまで一度もなかったが)
以前の『髪』討伐は危なげなく遂行できたし。確かにそこらの鬼よりは強いが、血潮たちの力があれば倒せない敵ではないだろう。
これが終われば一ヶ月間、可愛い娘に付きっきりで訓練できる。もちろん全力で遊ぶつもりだ
その後も、寿命が許す限り娘と遊ぼう。成長を見守ろう。とても楽しみだ。ワクワクする
そして死ぬ時はあの可愛い娘の顔を見ながら逝くのだ。我が人生にいっぺんの悔いなし確定!やったぜ!
…あ、娘が来る前に焦って勢いのまま知人宅にまとめて預けた春画たちはどうしよう。考えていなかった
まあ、後で考えよう。うん、何事もなるようにしかならんし 雷丸はそうやって生きてきた
彼は笑って娘の頭を撫で、使い慣れた大槌を肩に担いだ。
前を行く隊長の後ろについて歩き、都を出る。それは、いつもの道だった。
雷丸について
関係はしてる・渦中にはいない
『雷丸視点の回想』血潮や詠芽とはかなり独立したものになるかなと思っていたし、実際独立してはいるのだけど、こうまとめて見ると『なんだかんだで雷丸は血潮世代の人なんだなあ』って感じましたね。
雷丸、ちゃんと血潮と詠芽の関係性に絡んではいたし、なんなら勢いでブチギレして血潮のスイッチ押しちゃった本人ではある。
…本人ではあるけど、やっぱり直接の原因は雷丸には無くて、雷丸がどう動こうと血潮&詠芽の歯車はおかしくなっていたのだろうなあ。
だから雷丸は『関係者』ではあるけど、どこまで行っても『渦中の人』『直接の要因』ではない。そんな印象です。
雷丸の性質について
雷丸は本当にアホで共感性が低くて一晩寝たらネガティブ感情消え去るような頭の作りなので、血潮たちのことでその瞬間カッとなることはあるけど全く引きずってないんだよね。
血潮世代はその辺りもうちょっと足して割ってバランス取れば全然違う道を歩んでそう。
そんなだから雷丸は変わってしまった血潮に対してヘラヘラした態度で話しかけるし、無視されたら流石に『自分がキレたせいかな』とは思うけど『自分が悪い』とはあまり思ってなさそう。
血潮のことは普通に好きだけど、そうなった時に無理して突っ込んで行こうとはしないんよね。
雷丸って天然でそういう人付き合いしてきた人だと思う。去るもの追わずというか…ドライって言うとちょっとニュアンス違う気もするけど
血潮が豹変したタイミングでばな奈が来訪した、というのも大きかったろうな。『面倒くさい感じになってる血潮』より『ベリベリベリーキュートな娘』に全リソースぶっこむ男だよ彼は
『面倒で複雑なこと』より、『面白くてシンプルで分かりやすいもの』に全ツッパする。頭空っぽで楽しいことだけやる。雷丸の性質です。
全てのことに良い面と悪い面があるので、これは雷丸の長所であり短所でもあるのだろうと思います。
稀代のコメディ体質
雷丸はブレなくて、私の中ではもうずっとアッパラパーのアホというポジションに居続けています。
たとえ結末が『紅蓮の炎に焼き尽くされての戦死』だったとしても。
その出来事についてはもちろん雷丸の死も含めて重く受け止めているのだけど、彼単体だけはどうしても『戦死してしまった人』というのがパーソナル情報とは思えなくて、どこまで行ってもマジで『アホで面白いヤツ』なんだよな…と思えてしまいます。
なんか雷丸に関してだけは『重い死に方をピックアップして感傷的に扱う』方が失礼な気がしてしまうんだよね。
すごいよね。戦死した人をその後のらくがきや時空不詳ネタで普通に『アホギャグ要員』として召喚できるって 正直雷丸以外だとできないと思う。これがあいつの一番すごいところだと思ってます。アホはすごい
流石にこういうノリのネタは没直後には描けなかったけどね。赤世代が落ち着いてからだったかな…雷丸のアホネタを遠慮無くぶっこめるようになったのは。
赤の交神マンガがかなり気に入ってるのだけど、あの話で雷丸の顛末を知った竜実様が『ばーーーか』って言ってくれたことが切り替えポイントだったのかもしれない。…思い返すとそんな気がします。
竜実様が雷丸の墓に向けたあの伝言が本当に好きでな…雷丸の戦死も、遺されたばな奈ちゃんの想いも知った、諸々飲み込んだ上で雷丸に言いたいことが『ばか』なの、本当に好き。
自分がただの読者で交神部門投票があったら私は雷丸と竜実様に入れてると思う。
雷丸と下諏訪竜実
徳甲一族って交神相手選び本当に本当に本当にこだわって選んでたので、どれもお気に入りなんだけど、その中で特にお気に入りを選ぶと『唯一あみだくじでランダムに選んだ組み合わせ』になるのわけがわからんな…
交神の時の人違い・ぎゃーぎゃーやかましいやり取りや関係性・ばな奈ちゃんの存在・赤が交神相手に竜実様を選んだこと・ばな奈更紗姉妹で親王を解放したこと・一族と関わった竜実様の変化とその影響・親王と更紗の交神
…そして緋ノ丸が生まれ、『元人間出身神(崇良/お紺/昼子)チルドレン』というゲキアツパーティで最終決戦に挑み、呪いを解けたこと……
これ全部雷丸の交神時のあみだくじから始まった選択や補完妄想なんだと思うと結構とんでもないな…!?ってなりますね。
雷丸がここで別の女神を引いていたら上記の流れ全部無いからね!?崇良親王解放できてなかった可能性高いからね!?
神様は人間とは違う流れの中にいる存在なので、個人的にはみんながみんなホイホイ情移るとは思えないんですが…竜実様はなんとなくそういうイメージがありました。
なんでだろうね。交神セリフで姉への対抗心を滲ませる子供っぽさからだろうか。感情的になってるところが想像しやすかったのかも
俺屍の神さまは人間とは違う存在だけど、でも割と人間っぽいしょーもなさも持ってる(これはDisではなく好意的な感覚)印象なので、偶にはそういう人もいるかな、くらいに思ってます。徳甲世界だと中竜様もそれに当たる
だから数ある候補の中で『私がそういう人物像をイメージできる神』である竜実様を『偶然』引いた雷丸ってヤバいんだよ。
神様をどう捉えるかは人それぞれではありますが、徳甲一族や私の感性の場合ね。
実は後半一族に多大な影響を与えてると思う。
本人はそんなことこれっぽっちも知りませんが。そういうところも雷丸らしくて好きです。
少し話が戻る余談
血潮が変わってから戦死するまで『雷丸の補完』は全く描けてなかったんだけど※、今こうして思い返すと血潮世代最終盤の雷丸って割と興味深い位置のカメラだな…と感じます。
※これは血潮詠芽サイドで消化しておきたいものが膨大で手が回らなかった影響。赤世代に入ってからばな奈の回想でこの時期の雷丸を補完してはいた。
暗雲たちこめる血潮詠芽や状況に対する雷丸の感じ方・紅蓮の祠に向かうまでのばな奈や都との関わりなどなど…、どれも血潮詠芽にフォーカスしていると視界に入らないものなんだよな。あの時点の血潮や詠芽の激烈な視野の狭さも相まって
だから番外二次創作として、『雷丸視点で描く血潮世代の顛末』がめちゃくちゃ読みたい。マジで読みたい
多分本編で描いたものとはまるっきり全然違う見え方になるだろうから
まあ見たいって言ったものを見るには自分で描かなきゃなんですけどね かなり読みたいですね…いつか描いてくれないかな…自分…
次回(血潮)▶︎3/19更新予定