1年越しの徳甲一族キャラ語り 第14回になります。
これ何?という方ははじめにを御覧ください。
目次
詠芽(ながめ)-沿革
笹生と万屋玄亀の娘
詠芽は『世代の長子』として生まれた。母・笹生はその立場について何も求めなかったが、長である石榴はこう言った。
「あなたは非力だが賢く、術の才能がある。これから生まれてくる子供たちを支える役割を担ってほしい」
石榴は詠芽の資質を見抜き、適切な役割を与えた。詠芽がその役目を抵抗なく受け入れたのは当然のことだっただろう。
数ヶ月ののち、共に戦う仲間であり、彼女が支えるべき男児たちがやってきた。
お調子者の雷丸。そして、誇り高き獅子の血を受け継いだ次期当主・血潮だ。
雷丸と違って、既に天界である程度の教育を受けてきたらしい血潮は恭しく挨拶をし、大きな瞳で真っ直ぐ詠芽を見上げる。
そこには、支えるに相応しい次期当主としての風格があった。が、それに相反する幼さも感じ取ることができた。そう、彼はとても『小さかった』のだ。
一族の成長はとても早い。個人差こそあるが、数ヶ月で成人男性相当まで育つ者もいるという。
血潮は長の名を正式に襲名する時期になっても、そこいらの幼子と大差ない程度の背丈でしかなく、大きな丸い瞳も相まって非常に幼い面持ちのままであった。
京の民や御所へ挨拶回りをすると皆一様に面食らった表情を見せた後、横柄な態度を取ったり、可愛らしいと頬を綻ばせたりした。
それは彼を対等な存在だと、一族の長と認めている様子とは到底思えなかった。
どうやら、多くの人は外見で判断してしまうらしい。血潮がどれだけ立派な長になるための努力をしていても、彼らは分からないのだ。
詠芽を見て「保護者か」「姉弟のようだ」というような発言をした者もいた。詠芽は先代や京の町で見かける女性より背が高く、大人っぽい雰囲気だと評されていた。つまり、詠芽が隣にいることで血潮は更に幼く見られてしまっていたのだ。
皆が血潮を認め、対等に接してもらうために、詠芽はまず己の頭を下げることにした。
対等な仲間ではなく部下であり、弟のような存在ではなく敬うべき相手として接することにした。
血潮自身には何の落ち度もない。彼はこれからも努力し、勉学に励み、鬼を討ち、その強さと優しさで都のために尽力するだろう。それが出来るだけの資質と力と向上心を、彼は持っているから。
詠芽が一歩後ろを歩き、率先してこうべを垂れ、彼を尊敬すべき主人として振る舞っていれば、皆気付いてくれるかもしれない。血潮が皆に認められるためならば、詠芽はどう見られてもかまわなかった。
—
そんな日々が過ぎ、数ヶ月が経った。血潮は『詠芽が従者として接すること』を快く思ってはいなかったが、彼女の意図や優しさを汲み取ってくれていた。真っ直ぐでひたむきな人だ。
ある日、彼は言った。自らの子供たちには『対等な家族』であり『仲間』であってほしい、親に倣って主従の関係を築いてほしくはないと。
今の血潮と詠芽の関係が続けば、子供たちにも影響が出てしまうかもしれない。
だからその前に、朱点の『髪』を討ち果たすことができたら―――…以前のように親しく接してほしい、と。
まだ見ぬ子に対する想いも、詠芽の態度に対する願いも、どちらも本心なのだろう。
そして彼は宣言通り、相翼院の『髪』討伐を成功させた。
どこまでも誠実で、熱く、真っ直ぐな人だ。そんな彼の想いに応えなくては。以前のように、名を呼び捨て、かしこまった語尾を取り払い、
彼に、親しく…
そう思うと、何故だか心の臓が激しく脈を打ち、自らの体温が上昇しているように感じた。真っ直ぐ見上げる血潮の大きな瞳を直視することができない。この気持ちは、この気持ちはまさか――……
それから少しの間は、なんだか夢を見ているような心地であった。血潮も自分と似た気持ちを抱いているように見えた。
戸惑いはあったが、『彼と過ごす日々』に…『愛おしいと感じる人と共に生きている』という事実、その悦楽に溺れていたのだろう。舞い上がっていた。舞い上がっていたのだ。頭では分かっているはずのことを何故か見落としてしまっていたような、理由もなくこのまま満ち足りた時間が永遠に続いていくような気持ちになってしまっていた。
私たちが呪われた一族である以上、そんなはずは無いというのに。
詠芽は呪いの影響で体調を崩した。そして、そのことでひどく動揺した血潮が交神の儀を断られ、茫然自失とした状態で帰還したのだ。
冷や水を浴びたように我に帰った詠芽は酷く後悔し、舞い上がっていた己を責めた。
血潮は再び交神に挑み、それを成功させた。しかし何があったのか、人が変わったように口数が減り、これまでのように皆の話をほとんど聞かず、刺すような瞳で対象を見る…そんな風になってしまった。
その瞳の炎だけはめらめらと燃え上がり、熱い想いを写していたのだけど。
そして血潮は死んだ。雷丸も死んだ。最期の戦い、一ツ髪を打倒せんと挑んだ紅蓮の祠で――…最奥に辿り着く前に、無残に殺された。
その場に生きていたのは詠芽一人だった。2人と同じように焼け焦げ、身体中を切り刻まれながら、彼女の生命の糸は切れていなかった。
その左手、薬指には何故か、『長の証』たる指輪が収まっている。
全て、私のせいだ。何もかも、私が間違えたのだ。
詠芽は夢を見た。
夢の中で、何度も何度も殺された。炙られ、裂かれ、踏みつけられ、何度も、何度も殺された。無限に続く痛みと苦しみの中で最早何も考えることができなかった。しかし、彼女は一度もこの地獄から逃れようとはしなかった。
自分が悪いから、全てを、彼を狂わせてしまったから。
どれくらいの時が過ぎたのだろう、それとも時などというものが存在しない世界なのだろうか、もう、よくわからないのだが
『何か』が、詠芽の前に現れた。まぼろしだろうか、かげろうのようなものだろうか。大きな、大きな人だった。
『それ』は大きな手のひらで詠芽を掬い上げた。詠芽の全身以上の大きさはあるだろう大きな瞳は赤く、熱く燃えていた。
詠芽の全身を、ここには無いはずの『温度』が包み込む。
ああ、わかった。これはきっと『死』だ
『死』が、わたしをつつみこんでいるんだ
――その『死』は、思ったよりずっと、柔らかいものだった。
詠芽について
血潮という因果
詠芽さんの人生をこう振り返ってみると、なんというかずっと血潮のターン状態だなあ…と感じてしまいますね。
この人を語る上で欠かせない存在……どころか、『この存在を欠かせたら他に書くことが無いレベル』で詠芽さんは血潮を中心に生きていた感触があります。
他の『他者の存在が大きなウェイトを占める一族』を思い浮かべてみても、詠芽さんほどの人はいないなあと。
例えば、葉菜子ならそもそも彼女が『泣き虫の依存性質になった経緯』に火輪は関係ないし、緋ノ丸だって最初は更紗ママへの気持ちから始まり、迷ったり悩んだり色々あってホッシーへの大きな感情に辿り着いた感があるんだけど。
詠芽さんって『何かしらのきっかけからその結果』まで、彼女の因果のほぼ全てが血潮由来な人なんだよね。
血潮のために考え、血潮のために行動し、血潮への感情に振り回され、血潮に関して悩み後悔し、血潮と最期の戦いに挑んで、血潮に与えられた指輪で僅かに延命し…
一応詠芽さんが年長者として彼を助け支えようと思うきっかけは石榴から与えられた役割だけど、その石榴の発言自体『自分の子の力になってもらおう』が動機なのでやはり血潮由来と言えてしまうわけで。
ここまで何もかも一人を中心に回っている人って先程挙げた通り本当に詠芽さん以外いないと思います。
パっと見詠芽さんって『めちゃくちゃ特定の誰かに執着してるキャラ』っていう訳では決して無いんだけどね。(実際血潮に対する気持ちは執着とかではないと思う)
ただ、本当に『全てが血潮で回っていた』という『特性』を持っていた人だなあと。
雷丸の存在
詠芽さんが血潮という因果の中で生きるようになった要因は色々あると思うけど
①他者に尽くす、誰かのために行動するというのが詠芽さんの根っこの性質だから
②同世代の雷丸が人間関係に全く深入りしない(特別な関係を築かない)タイプだから
案外この辺りが主要因だろうか。なんで雷丸!?って感じかもしれないけど、雷丸が雷丸だからこそ詠芽さんは自然と血潮側に傾倒するようになった感ある気がするのよね。
雷丸は綺麗なお姉さん大好きだから詠芽さん好き好きアピールをよくしてたけど、思い返せば詠芽さんのスルーっぷりはなかなかのものだったな…!?と思うし、雷丸もそのことは大して気にして無いんだよな。『そういう気質』だったので。
雷丸が無茶苦茶誠実な男で本当の本気で詠芽さんが好きでガチ目の愛の告白とかをしてたら、詠芽さんはスルーせずに真剣に向き合ってくれたと思う。(多分フラれるけど)
雷丸のそういう軽いところ大好きだしこの世代の重み調整に絶妙なバランス感を与えていたと思うのだけど、彼がそういう感じだったからこそ詠芽さんはめちゃくちゃ血潮一辺倒になったのかもしれない。
『より強く重く熱く苛烈な感情を発露させた』のは血潮の方だったのだけど、『どちらがより相手にべったりだったか』と言うと詠芽さんの方だったのかも…と思います。
血潮の存在あるなしで詠芽さんの人生は全く違うものになるのだろうな…みんな大なり小なりそういうところはあるけど、詠芽さんはそれをより強く感じる人です。
責を負おうとする人
そんな詠芽さんは、血潮にべったりながら『思考を止めて相手の意思に従うイエスマン』という位置ではなく『相手のために、自分なりの考えで立ち回りを決めている』タイプでした。
例え相手の意にそぐわない行為だったとしても、『それが相手にとって一番利になる』と思えば詠芽さんは行動に移す人です。ちゃんと自分なりに考えて結論を出せる聡明で理知的な人です。
そしてその結果損失が出た場合は決して他者のせいにはせず、『自らの責任』と認識できる人でした。
これが良いところであり、難儀なところでもあると思うんですよね。
詠芽自身の考えで『血潮のために従者として接する』ことを決めた
↓
そんな微妙な距離を作ってしまった結果、『恋心』というお互いに制御できない感情を生んでしまった
↓
その結果、分かっていたはずの『健康度減少』に必要以上に動揺し、一度交神に失敗し、最終的には全滅という最悪の終焉を迎えてしまった。
※『最悪』は詠芽目線
責任感の強い詠芽さんは『こうなった原因は自分の誤った判断と、意思の弱さのせいだ』と考えてしまうんですよね。
『イエスマンではなく、自分なりに良いと思える手を通せる真面目な人』だからこそ、結果的に裏目に出た時は必要以上に自分を責めてしまう。深く後悔し、過去を否定してしまうほどに。
凪左助もこういうとこあるよね。親子だなあと思う。
物事をテキトーに捉えられないんだよね。それが良いところであり、泥沼にはまりやすいところでもあるんだよな
自罰の人
個人的な感情で言えば『過去のことは本当に否定して欲しくない』し、『選択が裏目に出てもその全ての責を負う必要なんて無い』と思うんだけど、詠芽さんは負ってしまう人でした。
そんな何もかもを自分のせいにしたような状態で、ぐちゃぐちゃなまま前に進もうとすれば、そういう結末になってしまうよなあ…と、全部終わった後だとそう思えてしまいますね。
リアルタイム中は彼らと同じ目線の高さで必死こいて彼らを追いかけていて、そんなに俯瞰して見ることはできなかったので、あくまで『全部終わったからこその見え方』ですが。
(全滅に関してプレイングだけで言えば100私が悪いんですが、本あと語りはそれを完全にキャラ目線で喋る場なので諸々ご了承ください)
詠芽さん、赦しは欲しくなかっただろうな。
そこがさらに難儀で、彼女が望むものがあるとすれば『全てが巻き戻ってやり直す』か『永遠に罰を受ける』になるの。(↑のお夏は現実のお夏の意思や行動とは関係なく、ただ詠芽さんが罰を受けるために生み出した分かりやすく象徴的な姿・幻だと思う)
もうなんかさあ 責任を負いすぎだよ。雷丸と足して割ったら丁度良くなりそう
徳甲詠芽という性質
詠芽さんを語ろうとすると二人セットで語ることが多くて、詠芽さん単体にフォーカスしたことってあまり無かったような気がするなあ。
単体で考えると、『極端に自責の念が強い』『自分が関わって起きた悪いことは、全部自分のせい、くらいに感じてしまう』…というのが一番核になっている性質だろうか。
全部を『自分の責任』にしちゃうのって、ある意味傲慢とも言えるほど偏っているのだけど(詠芽さん一人のせいで全ての因果が決まって世界が回るわけないので)
出来事の流れや周囲の人次第で、もう少し肩の力を抜くことを覚えられたのかなあ。
でも、『あの時代に生まれ、あの人たちに出会い、生きた』詠芽さんはそうではなかった。
『共にいる人によっては、別の生き方ができていたかも』と想定することはできるけど『そうだったら良かったのに』とは思えないし、『ここまで自罰的な性格じゃなければ或いは…』とも考えたくはないんだよね。
やはり、徳甲詠芽とはこの性質・この結末を迎えた彼女しかいないので。
次回(雷丸)▶︎3/16更新予定