徳甲一族 英霊の歌

マンガ描いたりしつつ俺屍Rをじっくりプレイする記録

一族あと語り / 12 きらら

1年越しの徳甲一族キャラ語り 第12回になります。
これ何?という方ははじめにを御覧ください。

きらら-沿革

 

銀杏と不動泰山の娘

 

先代の長・火輪は、生まれの近い仲間をはじめとした『共に生きる者たち』皆を愛していた。

病に侵され、苦しみながらも縋り続けた晩年の葉菜子の全てを受け入れる様は、正に愛そのものだ……きららはそう感じた。

 

きららが生まれて初めて知った『人間』とは『誰かが誰かを恋い慕う関係』であり、『誰かを深く愛する人』である。

きららは憧れた。短命がなんだ、誰かを愛し、愛される人生を目指してもいいじゃないか!
きっといつか火輪様のような王子様が現れて、きららを愛してくれるはずだ!!

 

きららはそんな夢を見ながら、己の人生を歩み始めた。

 

だけど、どれだけ待っても王子様が現れる気配は無い。王子様じゃなくてもいい、きららを愛してくれる人はいないのか?

いなかった。呪われた短命の一族に進んで関わろうとする者といえば、商売人か復興事業の担当者、あとは愚連隊とかいうヘンな元不良くらいなものだったから。

 

一方そんなきららの夢を知る由もない……知っていたとしても気に留めないであろう石榴は、着々と迷宮の探索や親玉の調査を進めていた。

『回復術をかけながらであれば通過できる』と強行した紅蓮の祠。

確かにその方法で探索することはできたし、体調に異常はなかったが、足には少し火傷の跡が残った。

 

相翼院の親玉に会った。何を言っているかわからなかったが、石榴はその情報から朱点騒動の核心に近い何かを暴こうとしていた。

一族の生まれた意味

この戦いの真実

……それは『自分が満足できる生を楽しく送れれば良い』きららにとって、知りたくない事実のような気がした。心がざわざわして、今すぐどこかに逃げたくなった。

 

逃げて、逃げて、逃げて、その先できららは遂に王子様に出会った。
優しくて力強い、端正な顔立ちの風神様。

きららは『交神の儀』で夢のようなひと時を過ごした。幸せで、ふわふわしていて、世界が明るく少しだけぼやけて光っているような、そんな時間だった。幸せだった。とても、幸せだったのだ。

天界から帰還してしばらくの間、きらきらの余韻の中で過ごした。笹生に恋話をふっかけたりもした。とても、とても気分が良かった

 

 

…だけど、酔いは永遠には続かないものだ。目の前に広がる今日の町は燻んだ色合いで、あの王子様のような神様はここにいなくて、誰の隣でもない場所にきららは立っていた。

あれ?何かがおかしいな そんなはずは、ないんだけどな。

 

来訪した息子の存在はとても愛おしかった。あの神には似ても似つかない助平のあほであったが、それでも可愛く思えた。きっとこの気持ちは夢ではない。

だから、そんな彼や子孫のためにできることをしよう。寿命迫るきららは初めてそう思った

そうだ、倒そう。石榴が見つけ出したあの鬼を、『髪』を倒そう。

 

誰よりも特攻能力に秀でたきららは、その鍛え上げた拳を思い切り撃ち込んだ。その結果、おぞましい気を発する強大な大蛇は地に伏し、消えた。

…だけど、そんな大物を倒したきららの心は全く晴れなかった。寧ろ、今まで以上に厚い雲が心を覆っていくようだった。

他の鬼と比較できないほど凶悪で強大な敵、それを粉砕したのは他でもない『己の拳』である…。その事実がじわじわと、現実としてきららの認識の中に入りこんできたのだ。

 

あの風神と過ごした時間は『夢や幻』のようなものだ。彼は別に特別きららを好いてはいない。助力するべき相手だから、助けてくれただけ。

復興が進む京には、幸せそうな所帯を持つ者も目に見え始めた。だが、きららの隣には誰もいなかった。

 

きららが死ぬまで一緒にいてくれる人なんていない。きららが死んでも想い続けてくれるような人も、きららにはいない。

きららに残された時間はあと僅か。自分が持っているのは『人を大きく超えた暴力的な拳』だけ。…それがきららの認識した現実であった。意を決して挑んだ髪との戦いの結果得られた『真実』だった。

 

こんなものは欲しくなんてなかった。だって、こんなものを持っていても王子様は現れないのだから。

きららよりずっと、ずっとか弱くて、きっと拳をひと突きするだけで死んでしまうだろう名も知らぬ女が、誰かと結ばれたことを幸せそうに報告していた。きららは、たまらない気持ちになった。

…流石に、悔しいな。どうしてなんだろう

そう吐露した『どこにでもいる女の子』を抱きしめる温もりは、ここにはなかった。

 


きららについて

きららについてはAの方で『根本的な語りたいこと』は語っちゃった感がある気もする。ゲームのエンドロールでは花のサビだったんだよね。

記録にも記憶にも残らない女の子

『夢や理想』と『現実』のギャップの中で生きていた、視野がちょっと狭い等身大の女の子。それが私が『リアルタイムで見てきた』徳甲きららです。

でも、彼女のそんな姿って本当に後世には伝わらないんだよね。
エンドロール(ゲーム側)でも書いた通り、記録に残るきららは『初めて髪を殴り倒した英雄』で、『幸運の座敷わらし(的存在に見える人)』…という感じなので。

きららってあんまり京の人との関わりも無いし、愚連隊辺りともそこまで交流が無いので、彼女という『一個人の姿』は本当に時と共に消えていってしまったんだろうな。

一応、『一族は人間』っていう意識の強い大将あたりはきららのことを英雄視してはいなかった……かもしれないけど。(↑このページの切り貼りはあくまでイメージなので、大将がきららの吐露をハッキリ目視してたわけではないと思う)

でも、『きららってどんな人?』って名指しで問うような一族はきっと居ないし、もし聞かれてもきららとそこまで関わりのない大将にはちょっと答えにくいだろうなあ。

それに、この時期の大将は『一族に親身ではあるものの、やはり自分とは違う存在だ』っていう認識だったしね。

 

リマインドしたくて仕方なかった(できなかった)話

これは終わったからできる補完妄想裏話なんですが、私けっこうきららの存在を掘り返す機会を探してたんですよね。どっかで彼女の存在を拾えないかな~~~って

後世の一族にも『徳甲きららという1人の女の子』を知ってほしくて

それで一応考えついていたものがありました。それはきららが使っていた自撮り板(幻灯屋さん作)を使うっていう案ですね。

軽いラクガキのノリで生まれたこのネタアイテムには、きららの生前の活き活きした姿が残っているんだよなあ……って思うと、ここから彼女を知ったり興味を持ったりできるかもしれない!ってね

きららの使っていた自撮り板は死後雷丸の手に渡る→その後は雷丸の遺品として蔵に仕舞われていた→これを燕九朗が拝借(更紗の面白い顔を撮ったりして遊んでた)

最終的には燕九朗が一番星に譲渡しました。(血筋的には返却した形)

色んな一族を渡り歩いた結果、ホッシーの手に渡ったことになっています。これによってホッシーや緋ノ丸は自分たちの知らない更紗の姿を知ったりしたわけですが

 

ここにきららの撮った幻灯も残ってるのかな〜とかちょっと考えてました。『記録でしか知らない勇ましい豪腕の女拳法家の生きた姿』を燕九朗やホッシーや緋ノ丸は見たのかなあって
そういう話をどこかで描けないかな〜とかね

 

他の一族は誰かの記憶に残っていたり、親から子へ、そしてその子へ…という流れの中でちょくちょく『思い出される』機会があったと思います。主に大将と関わった面子や、火輪などの派手めな人たちだけど。

きららはそこら辺が全然ないので(雷丸の回想には一回出てきたけど)、終盤になるにつれて『きららを!きららをリマインドしたい!!』という気持ちが高まっててですね。これは贔屓心や私情を多分に含んだ感情です。

 

だから燕九朗から一番星に『自撮り板』が渡された時、今だ!いけ!やれ!自撮り板のメモリー!!彼女の存在をリマインドしろ!と思ってたんですが、結果的にそんなタイミングはなかったね。という

燕九朗やホッシーは幻灯の彼女の姿を『見たかもしれない』けど、『そこから広がる話』が本当に全く一切思いつかなかったんですよね。

例えばだけど、もしもホッシーが『すごいアツくて先祖へのリスペクト精神に溢れた拳法家』みたいなキャラだったら『伝説の女拳法家!!勇ましくて最強!!』っていうイメージとのギャップで割と面白いリアクションしてくれたかもしれないけど。ホッシーはそういうタイプじゃないしなあ。

 

結局のところ、彼女の所持品が後世の手に渡ったとしても徳甲きららは子孫にとって『初めて髪をぶっ倒したすごい拳法家のご先祖』でしかないんだなあ。…そんなことを考えちゃいましたね

言うまでもないことだけど、無理矢理ねじ込むのは違うし。燕九朗もホッシーも彼らの人生を生きてたからね
きららを幸せにすることも、存在を思い出させることも、私が無理矢理するべきことじゃないし。

きららの存在を私情で強引に引っ張り出すということは、他の一族の在り方の否定になるし。

そういう意味できららはある種の要だと思ってます。彼女のために何かを崩すと他も全部崩壊するみたいな。

 

それはそうと本編内でリマインドできない分、私は彼女の存在がいかに大きいかを語りたいわけですよ。場外でならいくらでもリマインドしても良いから。私は彼女の存在を思い出してほしかったし覚えててほしかったんだろうな。

なんならエンドロールA・Bとか言って一族全員を語ってるのも突き詰めれば徳甲きららを語りたかったからと言っても過言ではないですよ

 

『徳甲きらら』に出会える世界

そういえば徳甲の後にプレイした釣鐘一族は、『全部終わらせてから、その記録を見て歴史を妄想する後世の研究者感覚でやろう』っていう妄想コンセプトなんですが、こういうコンセプトの場合きららのようなタイプの一族には絶対出会えないんだろうな……とか考えることがあります。

きららはリアルタイムで生きている時に見た『ただの女の子』面と、後世に伝わる『初めて髪を打ち倒した豪腕の戦士』という記録のギャップが本質だと思っているので。

こう、『後から掘り返して過去をサルベージするような補完形式』だと多分こういう着地にはならないんだろうな~と。

徳甲一族が超リアルタイムがっつり補完形式じゃなかったら『この徳甲きらら』には絶対出会えなかったんだろうなあ。

 

そして私は、そんなきららに出会えてよかったなあなんて思うわけです。


次回(石榴)▶︎3/10更新予定

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